あくせくしない ティドレの暮らし

 ソアシウ村は元ティドレ王国の首都。今でも王宮のあった場所が平地より少し高くなっている。ソアシウ村のメーン道路は要塞下から北に延びる。車も人通りも少なくゆったりした生活ぶりを感じる。当地の行政当局が中国人とアラブ人の商売を禁止した時期があったので、島一番の村でも商店がほとんどなくて、商品在庫が極端に少ないという。たとえば、ビールなど全くないらしい。もっとも住民はイスラム教徒ばかりらしいのでアルコールは必要ないのであろう。また、これまで訪れたインドネシアのどんな田舎でも中国人の経営する商店をよく見かけたものだが、確かにここでは見当たらない。商品が少ないということは、村人は自給自足に近い生活が可能だということであろう。
 ある紀行文からの情報だが、ティドレの人たちは、早朝に野菜を育てるために庭に出て、島の主要食品であるキャッサバを育てる。米はこの島では栽培しておらず、他の島から購入しなければならないので、どうしてもキャッサバが主食となるようだ。
 農産物としては、コプラ、丁子、ナツメグ、マンゴ、そして少量ではあるがカカオ、コーヒーが換金作物になっている。この島の住民は、テルナテと違いあくせくすることも少なく、リラックスして暮らしており、うらやましく思うとわが運転手君もしきりに言っていた。

■スルタン居宅地跡
 スルタン・ヌクの肖像画のある案内板とその墓があった。1738年、ティドレ・ソアシウ生まれのスルタン・ヌクは、イギリスの支援を得てオランダと戦い、1801年にティドレをオランダから解放した英雄。1805年テルナテで没している。

■美しい村
 ティドレ島を一周する道沿いの家々の前は、色とりどりの花で飾られ大変美しい。特にソアシウ村から北に向かう辺りが良かった。中部ジャワの農村で、同じように田舎の良さを感じることも多いが、この島の素朴だが手入れの行届いた道路沿いの景観は、今まで見た中でも最良だと言える。車は滅多に通らない、工場らしいものも見当たらず、公害とは無縁である。それに島の人々がその美しさを保とうとする常日頃の努力も感じられる。
 道沿いに変わった立て看板を見かけた。その一番上に「ASRI」とある。これは「美しい、シックな、調和のとれた」というような意味である。また、ASRIは次の言葉の頭文字ともなっている。

AMAN 安全
SEJUK 清涼
RINDAN 緑豊か
INDAH 美しい

 こういう標語のもと、島民皆でこの美しさを保とうとする心構えが素晴らしい。女の子たちが学校から帰る後ろ姿が見えた。イスラムの女性らしく頭にヒジャブを被っている。島をぐるりと回り、出発地点の手前の北側の海岸沿いの道路から、テルナテ島とその向こうの小さいヒリ島が見えた。(「インドネシア香料諸島」=宮崎衛夫著=より)

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