アザーンに苦情 禁錮刑 北スマトラ州 仏教徒に宗教冒とく罪
「アザーン(イスラムの礼拝の呼びかけ)の音が大きい」とモスクに苦情を言った仏教徒の女性に対し、北スマトラ州メダン地裁が21日、宗教冒とく罪で求刑通り禁錮1年6月の判決を言い渡した。アザーンへの苦情に同罪が適用されるのは異例で、有力イスラム団体も「重すぎる判決」と疑問視。人権団体は「表現の自由の侵害だ」と非難している。
事件は2016年7月、北スマトラ州タンジュンバライ市に住む華人で仏教徒のメイリアナさん(44)が、近所のモスクのアザーンの音が大きすぎると苦情を入れたことが発端。これを受け、フェイスブックなどのソーシャルメディアでは「モスクでアザーンが禁止された」などとデマ情報も流れ、暴徒化した群衆が十数の仏教・中国寺院を襲撃、放火する騒動に発展した。
地元メディアによれば、同市では騒動前から、多数派のムスリムと少数派の仏教徒らの対立が過熱化していた。特に09年に仏教寺院の屋上に建設された高さ6メートルの仏像をめぐっては、ムスリムから非難が噴出。「ムスリムが多数派の町が仏像に見下ろされている」「仏像が町のシンボルとみなされるようになった」「場所によっては仏像の方角に向かって礼拝をしなければなくなった」などの声が上がり、騒動後の16年10月にはイスラム団体の要求を受け入れた市が仏像の撤去を命じた。
アザーンについては当初、ユスフ・カラ副大統領がモスクにも音量の配慮を呼びかけるなど沈静化を図っていた。だが国内のイスラム団体を統括するイスラム学者会議(MUI)の北スマトラ支部は17年1月、メイリアナさんの言動が「宗教冒とくにあたる」とするファトワ(宗教見解)を発表、メイリアナさんは起訴された。
21日の判決でメダン地裁のワヒュ・プラスティヨ裁判長は、被告は特定の宗教に対し、公共の場で意図的に対立感情をあおる発言をし、冒とくしたと指摘、禁錮1年6月を言い渡した。弁護側は控訴する方針を示している。
メイリアナさんには宗教冒とく(刑法156a条)と公共の場での憎悪表現(同156条)の罪が適用された。17年5月にはアホック元ジャカルタ特別州知事が、視察先の住民対話での演説でイスラムの聖典コーランに言及、イスラムを侮辱したとして、同じ条項を根拠に禁錮2年の判決を受けている。
今回の判決に、国内最大のイスラム団体ナフダトゥール・ウラマ(NU)のロビキン理事長は「『アザーンの音が大きすぎる』と言うことが、特定のグループや宗教への憎悪表現や敵対姿勢にあたるとは思えない」と疑問を呈した。
人権団体アムネスティ・インターナショナルは「騒音に抗議することは犯罪行為ではない。判決は、表現の自由に対する目に余る侵害だ」と非難。「宗教冒とく罪の恣意(しい)的・抑圧的な運用が増えていることを示している」と懸念を示した。(木村綾)