初のインドネシア語辞典 初心者もビジネスにも 小学館が出版【新時代の辞書(上)】
新しいインドネシア語辞書「プログレッシブ・インドネシア語辞典」がこのほど、小学館から出版された。日本の大手出版社が手掛ける初の本格的なインドネシア語辞書で、単語に品詞を記載、接頭辞が付いたままでも引けるようにするなど、初級者でも使いこなせるよう工夫を施した。実際に使える豊富な用例を採用し、日常生活や職場、ビジネスなどにも活用できそうだ。辞書作りに携わった編集委員らに特徴や編さんプロセスについて聞いた。
辞書は全1095ページ。「インドネシア語—日本語」は732ページ、「日本語—インドネシア語」は360ページ。
これまで出版されたインドネシア語辞書では、基の単語(基語)に接頭辞、接尾辞が付いている場合、それを外して基語を拾い出してから引く必要があった。ある程度語法を理解していないと辞書を使えなかったため、授業で引き方を習うほどだった。だが、この辞書では、例えば接頭辞「ber」が付く見出し語は21ページ、「me」は50ページを割き、派生語で引けるようになっている。
辞書は小学館外国語編集部が企画。編さんした編集委員は、これまで初心者向けのインドネシア語のテキスト本などを出版してきた神田外語大学の舟田京子教授、南ジャカルタのブディ・ルフール大学の高殿良博教授、京都産業大学の左藤正範教授。「インドネシア語—日本語」の部分は24人、「日本語—インドネシア語」は12人の研究者らが手掛けた。
2013年7月ごろから、どのような辞書にするか話し合いを始めた。これまであいまいだった品詞を明確に記載し、動詞は自動詞と他動詞を区別、接頭辞が付いたままでも見出し語として引けるようにする。その横には基となる単語を記載するなど、まず初心者にも分かりやすい辞書にすることを決めた。
その後、既存の辞書を多く集め、取り上げる単語を選択。使わなくなった古い言葉は切り捨て、新しい言葉、実際によく使われる日常語、時事語、ビジネス語を中心に、約3万3千項目に絞り込んだ。また、約2万8千の実用的な用例を記載した。
舟田さんは「特に一番苦労したのが品詞の特定。インドネシア語はもともと品詞があいまいな言語。これを明確にするのは難しかった」と話す。「これは他動詞だが、日本語に訳すと形容詞的意味にもなる」などと、編集委員3人で議論を進めながら区別していった。
例えば接頭辞「ter」が付く言葉。「ter」のページを開くと、まず別枠で語法の説明があり、その次に1〜11の語義が並ぶ。名詞が付くことで形容詞のように使う用法、形容詞の最上級、副詞や自動詞となる用法のほか、「terdakwa(被告)」のように、「告訴(dakwa)された人」であることを示すことで、人を表す名詞となる用法などをそれぞれ区別して詳述。品詞を特定することで、基語からどのように派生し、どのように使われる言葉なのかを理解できる。
また、日本語—インドネシア語の辞書も併載した。見出し語約1万8千項目、用例約1万8千例。「日本語の『工夫』にぴったりと当てはまるインドネシア語がない」など、互いの言語のニュアンスの違いに苦労したが、日本語が堪能なインドネシア人研究者らが協力して語義を特定していったという。
舟田さんは「今までの辞書は学生が使うことを前提にしたものだった。これは社会人も簡単に使える。多くの人に使ってもらい、インドネシア語が好きになり、理解を深める。そういった機会になってもらえれば」と話した。(上村夏美、写真も)(つづく)