東方展開を見据える KIIC、秋田社長 創業25周年を超えて
伊藤忠商事がシナールマスグループと共に開発する西ジャワ州のカラワン工業団地(KIIC)はことし創業25周年を迎えた。KIICで2期にわたり社長を務める秋田尚史さん(56)は団地内の充実と同時に、発展が予想される東方への展開も考えている。これまでの思い出と今後の展望を聞いた。
関西圏でマンションの分譲などに20年近く携わっていた秋田さんが、インドネシアに赴任したのは2002年のこと。国内の宅地造成の経験から白羽の矢が立った。「びっくりした。なんでいまさらなんだろうと思った」と振り返る。当時伊藤忠商事が出資していたデルタマスの住宅開発事業を経て、04年にKIICの社長に就任した。
当時は1997年のアジア通貨危機の影響がありバリ島でテロが起きるなど政情も不安な状態で、用地の販売が進んでいなかった。魅力ある団地にするため地上にあった電話線を地中に埋設、道路の舗装に取り組み中央分離帯の芝を植え替えるなど、地道な作業を続けた。2004年にヤマハ発動機が第2工場の建設を決めたことが転機となり、それ以降二輪のサプライヤーを中心に入居が進んだ。
12年ごろからは内需向けの生活資材や食品関係の企業の入居、規模拡張も盛んになった。07年当時87社だった入居企業は、17年時点で151社を数える。「四輪に関しては今後も既存の企業の規模拡張が考えられる。化学や食品といった分野でも新たに工場を作りたい企業がある」という。
日イで建設に取り組む国内最大規模の国際貿易港、パティンバン港(西ジャワ州スバン)が整備されると、製造拠点や物流の流れが東方に移っていくことも考えられる。秋田さんは「港へのアクセス道路や高速道周辺を開発して、第2のKIICを作ることも考えている。物流拠点の需要もあるだろう」と構想を語る。
■共存する関係作り
工業団地の円滑な運営のためには周辺地域との協力が不可欠だ。秋田さんは入居企業から成る自治会と協力し合い、奨学金の授与や工場見学の実施など企業の社会的責任(CSR)活動の充実を図っている。「周辺の村から警備員を雇用したり、手に職をつけてもらうようなプログラムを実施し、双方が共存するための関係作りを進めている」と話す。こうした努力の結果もあり、KIICは15年に政府から最優秀工業団地の認定を受けている。
■製造業を下支え
40歳を過ぎた働き盛りの頃からインドネシア駐在を始めた秋田さんを支えるのは「海外で頑張る、製造業で働く日本のお父さんの役に立ちたい」という信念だ。KIIC周辺の開発を進めて、住みやすい環境作りを進める。
今後の希望は「現在広島大学やバンドン工科大学と提携して、入居企業向けの座学研修を行っている。2大学と協力して訓練校を作ること」。団地内の湖を利用した文化的な施設も作りたい。魅力ある団地にしていくための挑戦は続く。(平野慧、写真も)