看護師育成に大臣令 ラダーシステム採用 災害、救急、老年看護も
国際協力機構(JICA)がインドネシア各地で続けてきた「看護実践能力強化プロジェクト」を受け、保健省は7月28日、看護師の能力をレベル分けし能力開発・向上につなげる「ラダーシステム」を全国の病院で取り入れる保健大臣令2017年40号を発表した。同システムの整備と同時に、災害看護や生命危機状態にある救急患者らをケアするクリティカルケア看護、今後必要となる老年看護のカリキュラム作成なども進めている。
インドネシアでは、多発する災害、今後進む高齢化、地方と都市部の医療格差、家族看護の弱体化などが課題となっており、医療サービスの充実には看護師の能力向上が欠かせない。
JICAは2012年以降、ジャカルタ特別州、西ジャワ州バンドン、東ジャワ州スラバヤ、北スマトラ州メダン、南スマトラ州マカッサルの5地域にある、5大学・9病院を対象に看護実践能力強化プロジェクトを実施。ラダーシステムはインドネシア人看護師ら約20人が進めてきた。
ラダーシステムの整備に携わってきたハサヌディン大学病院の看護師長、ウェルナ・ノンチさんによると、同システムは看護師の能力に応じてレベルを0〜5の6段階に分け、継続して学ぶことができる仕組みで、政府機関や病院と連携しながら構築してきた。
ウェルナさんは「大臣令が出て、今後はすべての病院でこのシステムを導入することになる。今は周知活動に力を入れている」と話す。日本では実施していないが、インドネシアでは同システムのレベルに応じて、職業手当として基本給に上乗せする形で報酬を出すようにするという。
JICAの同プロジェクトは10月に終了するが、参加し学んできた看護師らが引き継ぎ、ラダーシステムの評価レベルに合わせた災害看護や救急看護、老年看護に関する新たなカリキュラムを作成し、全国の看護師に広めていく。
■中長期的視野も
ハサヌディン大学では1〜4日、同プロジェクトのメンバーで、災害や救急介護分野を担当する看護師たち約30人が対象地域から集まり、セミナーに参加。仮想の災害や事故に基づき、現場と病院でのやり取りなどのシミュレーションを実施した。これは自分たちで考えた災害看護について学ぶためのカリキュラムの一つで、改善しながら取り入れていくという。
日本赤十字看護大学大学院非常勤講師で国際・災害看護学の専門家小原真理子さんらが協力しており、日本で培われてきた災害看護の知識を基にアドバイスしてきた。5月にはメンバーと共に東日本大震災の被災地へ足を運んだという。
小原さんは「インドネシアでは災害時には急性期の対応が中心となっているが、日本の被災地で仮設住宅などを見たことで中長期的な視野を持つことができた」と話す。
「災害看護は比較的新しい分野だが、ラダーシステムを基にレベルに合わせて学んでいける体系を整えようと看護師たちが奮闘している。日本をあっという間に抜いてしまいそう」と期待を寄せている。(毛利春香、写真も)