体験を執筆の設定に 初訪日のベストセラー作家 フアディさんが講演
ベストセラー作家のアフマッド・フアディさん(44)が24日、中央ジャカルタにあるビヌス大学の施設で、学生ら約30人を前に講演、国際交流基金アジアセンターの文化人招へい事業で初訪日した際の異文化体験を振り返りながら、「いつかこの経験を(作品の)執筆の設定に使えれば」と語った。
国際交流基金は、対日理解や文化交流促進の目的で、訪日経験が少ない東南アジア諸国連合(ASEAN)各国の文化人を日本に招く事業を実施している。フアディさんは2016年10月、同事業で訪日、東京などに約2週間滞在した。
「作家として、いつも新しい設定とキャラクターを探し求めている」と話すフアディさん。良い設定を生み出すには「全ての感覚」が大切と言い、「日本訪問では、常に五感を使うように意識した」という。
横浜市内の地下鉄で切符を買う際には、券売機の台に傘やつえを掛けておく滑り止め付きのスペースがあることに気づき、「日本人は細かな点に気を配る」と感心。私費で妻と2歳の息子を連れて行ったフアディさんは、トイレの個室内に、幼児用の椅子が設置してあることにも驚いた。
ホテルのロビーでの通話禁止や「お静かに」の表示を見て、「日本はとても静かな国」と感じ、ラッシュ時の駅の改札では「話し声がなく、靴の音しか聞こえないことに驚いた」。片やインドネシアでは「大勢の人が集まっていながら、静かな場所は見つけられない」という。
食事で驚いたのは、うどん、焼き肉、すしなど「新鮮でおいしいハラルの日本食」が簡単に見つかったこと。ハラルレストランでは、インドネシア人留学生がアルバイトをし、礼拝場所が設けられていることにも気付いた。
京都、大阪、広島なども巡ったフアディさん。最も印象に残った都市には、広島を挙げた。原爆ドームや平和記念資料館を見学し、「戦争時の焼けた臭いを感じた。心に強く残った」と語った。
「日本を理解するのに2週間は短すぎた」とフアディさん。「もっと日本のことが知りたくなりました」と話した。
フアディさんは09年、母校であるプサントレン(イスラム寄宿学校)での実体験を元にした小説「Negeri 5 Menara(五つの塔の国)」を出版。同作はベストセラーとなり、映画化され、英訳本や続編も出版された。(木村綾、写真も)