「貧困地域依然と残る」 「低中所得国」のジレンマ WFPの牛山代表が指摘

 年率六%台の安定した経済成長を続け、格付け会社から投資適格と評価されるなど、世界から成長国と注目を浴びるインドネシア。しかし、中央ジャカルタ・ウィスマ・ケイアイにオフィスを構える国連世界食糧計画(WFP)ジャカルタ事務局の牛山ココ代表は、インドネシアの経済成長はジャワ島に偏っており、「ジャカルタは高層ビルが建ち並び、豊かに見えるが、インドネシアにもアフリカのような飢餓地域がある。現在も人口の三分の一にあたる八千七百万人は、食糧危機に直面している」と語り、地方では課題がまだ山積みとなっていることを指摘した。

 WFPは一九六三年、国際連合食糧農業機関(FAO)から独立する形で設立。国連唯一の食糧支援機関として、各国政府や企業と協力し、後発開発途上国など飢餓の激しい地域と、自然災害や紛争などで被災した地域で食糧配給、栄養に関する知識の啓蒙などの活動に取り組んできた。
 インドネシアでは一九六四年に発生したバリ島のアグン山噴火での食糧・災害支援を皮切りに、インドネシアの中央・地方政府と協力して、東部を中心に食糧が不足している地域に、栄養価の高いビスケットを配布するなど、平常時と災害時の食糧配給を行ってきた。
 しかし、ジャワ、スマトラ両島がけん引する経済成長の結果、二〇〇三年に世界銀行がインドネシアを「低中所得国」と分類。貧困地域は残っているが、世界各国から政府開発援助(ODA)が激減した。
 また、インドネシア政府も国内の飢餓問題を自力で解決する意思を表明。これまで、WFPがインドネシア国内の飢餓問題への対策を全面的に支援してきたが、今後は政府がその多くを担うことになった。
 しかし、牛山代表は「政府は食糧不足・飢餓問題が起こりやすい地域についての情報収集、分析などのノウハウがまだ不足している」と指摘する。予算配分の参考にしてもらおうと、二〇〇九年にWFPはインドネシア全土を対象に地域ごとの食糧供給状況や、食糧不足に対する脆弱さの状況を示す地図「食糧安全保障地図(アトラス)」を作成するなど、情報提供に軸足を移すことになった。
 今後は、食糧の市場価格や天候が食糧供給に与える影響などの情報収集・分析を政府と共同で行いながら、政府が独自に食糧安全保障に取り組む能力の強化を支援していく。
 牛山代表は、飢餓の原因は(1)小規模な自給農家の食糧生産が天候や災害に脆弱であること(2)栄養価の高い食糧を買うことが難しいこと(3)安全な水も確保できず、栄養学も普及していないため、食糧を有効に活用するための環境が整っていないこと―の三つだと指摘した。
 コメの価格は二〇〇八年から上がり続け、現在はタイ、ベトナムの二倍になっているという。多くの島で構成されている東ヌサトゥンガラ州では、交通網が未発達で食糧が市民に届かない上、気候変動のため干ばつと洪水が多い。WFPがインドネシアで最も注意を向けている地域の一つだ。
 政府主導の貧困層にコメを配給するプログラム「ラスキン」も、複雑な手続きなどが障害となり、結果的に必要とする人に行き届かない地域もある。牛山代表は「地域にあった方法を、現地の人々と一緒に模索していきたい」と語った。

■ 企業パートナーを模索
 WFPは平常時の飢餓撲滅への取り組みのほかに、企業と提携し、災害時の(1)物流確保(2)情報通信システム(3)ニーズ調査(4)食糧供給―なども行っている。
 牛山代表は「他国では、通信会社と連携して災害情報をSMSで発信するなどのサービスを行っている。インドネシアの地場企業や、インドネシアに進出する日系など外資企業と協力してインドネシア全体の問題解決に取り組んで行きたい」と意欲を示した。

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