動き始めたモロタイ開発 「大統領案件」に日本も前向き アホック氏の弟、バスリ氏に聞く
2016年11月、中部ジャワ州クンダル県の新設工業団地の開所式に出席したジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領は記者団に向かって「次は(北マルク州)モロタイ島を開発する」と人差し指を立てて強調した。モロタイの開発を現場で指揮するバスリ・チャハヤ・プルナマ氏(49)に、ジャカルタから2500キロ以上離れた島の魅力を聞いた。
バスリ氏はアホック・ジャカルタ特別州知事(知事選出馬で休職中)の弟で、10〜15年にバンカブリトゥン州東ブリトゥン県知事を務めた。16年から不動産開発ジャバベカ社のモロタイ開発責任者に就任。スマートフォン(スマホ)にジョコウィ大統領夫妻と懇談する複数の写真が保存されている。
モロタイは太平洋戦争の戦地で日本軍と米軍が戦った島で知られ、ハルマヘラ島の北に位置する。神奈川県とほぼ同じ広さで、人口は約5万人。直行便が通ればジャカルタやシンガポール、台湾など各地に片道4時間弱で行くことができ、「輸出拠点としても好立地」として投資家に売り込む。貿易や税制上優遇される経済特区(SEZ)に14年に指定され、100年間土地を使用できる権利や投資許可がすぐ下りるワンストップサービスが提供される。
バスリ氏は「先日、台湾のコンソーシアム(企業連合)とジャバベカで合弁会社設立の覚書を結んだ。ホテルや工業団地、漁場整備などで提携する」と観光から農業、工業団地開発の島一体の開発構想が動き始めた、と力説する。
ルフット・パンジャイタン海事調整相は日本との海洋協力の一環として、日本側にリアウ諸島州東ナトゥナのエネルギー開発、アチェ州ウェ島サバンの港湾開発、そして北マルク州モロタイ島といった国境に近い離島の開発で協力を要請している。
モロタイは世界最深クラスのフィリピン海溝が近くにあることから、海洋水産省が日本政府に対し、モロタイで海洋深層水の商業化を実現するための提案をしている。
冷却水として活用するほか、再生可能なシステムの構築などを検討する案件で、谷崎泰明・駐インドネシア日本大使が12月8日に海洋水産省でスシ・プジアストゥティ海洋水産相と会談し、モロタイについて話し合った。
大使館の担当者が現場視察を行っており、「直近の話ではないが、前向きに検討している案件」(担当官)という。
ただ、電力不足と交通インフラの脆弱(ぜいじゃく)さが離島開発の障害。政府はことしに入り、年内に同島内に10メガワットのガス発電所の建設を始めると公表した。
格安航空会社(LCC)シティリンクは中国〜モロタイ間や、中国人観光客の増加が著しい中国〜北スラウェシ州マナド間にモロタイ便を追加するルートの検討を始めている。
「6月には、ジョコウィ大統領がモロタイを訪れる予定だ」。広大な構想実現に向け、バスリ氏は投資家と商談を重ねている。 (佐藤拓也、写真も)
「兄の騒動は政治問題」 バスリ氏
アホック氏の弟のバスリ氏に最近の情勢や今後の展望を聞いた。
――イスラムを侮辱したとして現在公判中の兄、アホック氏をどうみるか。
公平な判決を望む。(今回の騒動は)政治のしがらみの問題でしかない。兄はムスリムの友人がたくさんいる。ムスリムを侮辱するような人ではない。
――アホック氏が進める人工島開発計画について。
私は(事業に)関与していないが、人工島開発はやるべきだ。オランダや日本などが干拓して開発を進めているのに、なぜインドネシアだけがだめなのか。早期開発を期待する。
――日本について。
ほんの数カ月だが、日本の自動車メーカーで営業していたことがある。このときの経験がわたしのビジネスの基礎。日本企業にもモロタイの開発に関心を持ってもらえたら。
――今後の展望は。
いまはモロタイ開発に注力する。5年後をめどに政治の舞台に戻り、バンカブリトゥン州の知事を目指す。
◇ バスリ・チャハヤ・プルナマ氏 スマトラ島東沖のバンカブリトゥン州東ブリトゥン生まれ。客家系の華人。東ブリトゥンで医師として勤務。2010年から15年まで東ブリトゥン県知事。16年から不動産開発ジャバベカ・モロタイの最高経営責任者(CEO)。49歳。