日本の社労士を導入 保険加入の促進事業 全社連とJICA1カ月で4500人
日本の社会保険労務士(社労士)と日本型適用徴収システムをインドネシアに――。日本の全国社会保険労務士会連合会(全社連)と国際協力機構(JICA)は社会保障機関(BPJS)の労働部門BPJSクテナガクルジャアンと協力し、インドネシアでの保険制度への加入を促進している。10月にはジョクジャカルタ特別州と東ジャワ州ジュンブル県でパイロット事業を開始。約1カ月で4500人が加入するなど日本式のシステムが効果を上げており、2017年にかけて全国各地に広げる計画だ。
BPJSクテナガクルジャアンのアグス・スサント代表はこのほど、日本の社労士と日本型適用徴収システムを取り入れたパイロット事業「プリサイ(PERISAI)」=インドネシア保健社会活動=を拡大していくと発表した。アグス氏は「社労士や日本型適用徴収システムは日本で成功したモデル。研修を受けた社労士らが、労働者や雇用主を通じて社会保障制度を広めることができる」と説明した。
全社連とJICA、BPJSクテナガクルジャアンは研修を実施し、日本の社労士にあたる「プリサイ」と、地元のNGOや協同組合などの団体を「セントラ・プリサイ」として認定。各グループに2人のプリサイを充て、ジョクジャカルタで3団体、ジュンブルで4団体が活動を続けている。
JICAの労働政策アドバイザーの高崎真一さんは「これまではBPJSの職員が、申し込みや相談に来る人を事務所で待つだけだった。社労士は、自ら地元のコミュニティーに入り込み、加入者を広げるやり方」と説明する。
町内会(RW)など地元コミュニティーに入り込み、リーダーを中心に保険について説明。代表者が加入すると周囲の住民も入ることが多い。また社労士も地元の人で顔見知りであることから、説明なども聞き入れてもらいやすく、加入者は順調に増えているという。
最大の課題は情報不足。高崎さんは「制度そのものを理解しておらず、説明を聞いて『思ったより価格も安いし必要そうだから入ろう』と加入する人が多い」と指摘する。また、広大なインドネシアにBPJSの支部はまだ少なすぎるという。
約3300平方キロの面積、約240万人の人口を持つジュンブル県で、BPJSの事務所は1カ所で、職員も約20人のみ。職員は同事務所に訪れる住民の対応で限界だという。さらにインドネシアでは毎月保険料を払う必要があり、各地から遠方の事務所まで足を運ぶことも大きな手間になっている。
パイロット事業は、アチェ州、北スマトラ州メダン、南スラウェシ州マカッサル、北スラウェシ州マナド、西ジャワ州バンドン、ジャカルタ特別州、バンテン州、バリ州、西ヌサトゥンガラ州ロンボク島、東ヌサトゥンガラ州クパンの10地域・都市を合わせた計12地域・都市へ拡大していく。健康保険を担当するBPJSクセハタンでも10月から独自に、日本の社労士制度を取り入れたパイロット事業を進めてている。
BPJSによると、BPJSクテナガクルジャアンの対象者は約1億3千万人で、うち約60%の約8千万人がインフォーマルセクター、残りの約40%がフォーマルセクターに所属。全体では16年10月までに2100万人が加入した。
今後、19年までにフォーマルセクターの加入率を全体の80%に、インフォーマルセクターは同5%に引き上げる目標を掲げる。一方、BPJSクセハタンは16年8月の加入率は68%で、19年までに全員加入を目指している。(毛利春香)