介護文化の定着目指す 専門家養成コース開設 ビンタロのIMC病院 EPA帰国者に期待
バンテン州南タンゲラン市ビンタロにあるイクサン・メディカル・センター(IMC)ビンタロ看護専門学校は三十一日、介護士養成コースの開講式と一期生の入学式を行った。IMC病院グループで介護事業を進めている芦田洸さんによると、インドネシア国内で介護士を養成する専門のコースが設置されるのは初めて。介護士育成と介護事業の展開で、高齢化と所得向上で今後の拡大が確実視される介護市場の需要に応えるとともに、日本とインドネシアの経済連携協定(EPA)に基づいて日本で働き、国家試験に合格できずに帰国した看護師・介護福祉士候補者に活躍の場を提供することを目指す。
親族のつながりが強いインドネシアでは、高齢者は家族が面倒をみるという考え方が当然視されている。介護専門のメードの派遣業者はあるが、専門の知識は持っていない。
芦田さんはインドネシアで「朝四時に起きて、六時半に出社、昼も様子を見に帰ってきて、散歩、風呂、ご飯をすべて介助する」という母の介護を体験。雇っていた介護専門メードは心優しかったが、いざというときの不安があり、「専門の介護士、介護施設があれば」との思いが浮かんだ。
母の死後、IMC病院グループを経営し、旧知の仲だったピータース・シマンジュンタックIMC看護学校校長と再会。豪州の病院での治療で重病を克服し、病院や看護学校を設立したピータース氏と芦田さんの思いが合致し、昨年半ばから介護士養成コースの開設準備を進めてきた。
介護士に当たる職業がなく、介護という概念が認知されていないインドネシアで、近隣の高校を回り、卒業後の進路を心配する高校生や家族を説得して一期生十六人が集まった。
コースの名前はアルファベットで「カイゴシ/ケア・ギバー」。入学当初は看護学校の教材から抜粋した老人医療のカリキュラムで医療知識を学び、二年次からは日本のホームヘルパー二級に当たるカリキュラムを行う。日本の介護学校との提携やEPAでの派遣を念頭に置いた日本語学習も行っていく方針だ。
今後は老人ホームやデイケアサービスの運営も開始する予定で、「国内初の総合介護事業者としてインドネシアの介護のパイオニアになりたい」と芦田さん。介護士養成コースの生徒には「介護事業の核となる人材に育ってほしい」と期待を込めている。
■「国内外に人材輩出を」
EPA看護師派遣の第一期生として青森の病院で看護師候補者として働いていたヌルン・フダさん(二九)。「日本での経験を生かしたい」「インドネシアでもこれから高齢者は増えてくる」との考えから、在インドネシア日本大使館が主催した帰国した看護師向けの就職説明会(昨年十月)で面接をし、同コースの教師として働くことになった。
二十九日にEPA介護士候補者が初の国家試験に挑み、各地の施設で流ちょうな日本語で楽しそうに会話し、丁寧に介助をするインドネシア人介護士の姿が各メディアで報じられた。「日本でインドネシア人介護士が評価されているこのタイミングで、インドネシア国内で介護を根付かせていきたい」と芦田さんは力を込める。
「日本で働きたいと思っていった候補者にとって帰国は不本意な結果だが、『インドネシアにもこういうところがある』『一緒に介護の文化を作っていこう』というチャンスを提供したい」と芦田さん。「心優しくて介護士の資質があるインドネシアの人々を育成し、国内外に人材を輩出する介護大国になってほしい」と願いを語った。