【アルンアルン】広がる所得格差
近年、多くの国で所得格差の拡大に大きな注目が集まっているが、インドネシアも例外ではない。1に近いほど不平等度が高いことを示す指標(ジニ係数)の変化をみると、インドネシアでは民主化直後の0.33から前政権期の末期には0.41へと上昇している(正確には所得ではなく支出の格差を推計)。
なぜ所得格差は拡大しているのだろうか。先進国を対象に分析した研究によると、低技能労働者(中等教育修了者)を活用する技術(大量生産に適した技術)が発展した一昔前とは異なり、いまは高技能労働者(高等教育修了者)を活用する技術革新が進んでいる。その結果、この新しい技術に対応できる高技能労働者への需要が増加し、低技能労働者との間で賃金格差(所得格差)が拡大していったとされる。そして先進国で開発された技術は途上国にも容易に広まっていくことから、インドネシアでも同様な現象が起こっていることが予想される。
実際にインドネシアの情報を用いて、高技能労働者と低技能労働者の賃金を比較すると、アジア通貨危機直後に1.6倍程度だったその差は拡大し続け、近年は2.4倍近くにまで達していたこと、また、このトレンドは被雇用者に占める高等教育(大卒程度)修了者の割合が高まっているにもかかわらず進行していたことが確認できる(図)。つまり、高技能労働者が増えているにもかかわらず労働市場では企業側の需要にまだ追いついていないため、その賃金がより上昇しやすくなっている様子がうかがえる。
企業は(労働力も含めた)資源の多寡に応じて行動を変えるため、いつかは再び低技能労働者を活用する技術開発が促進され、所得格差が縮小する時代が来るとみられている。ただし政府は悠長にそうした長期的なサイクルを待つことはできない。所得格差の拡大を緩和するためには所得再分配政策を充実させる必要がある。その予算確保のためにも、フィリピンやタイなど近隣諸国と比較して(国内総生産比でみて)低い水準にとどまっている租税収入の改善が、大きな課題として現政権にのしかかっている。(東方孝之・アジア経済研究所地域研究センター研究員)