【火焔樹】 カタンコトンの心地よさ
先日、ジャカルタ中心部のタナアバン駅から郊外へと向かう電車に乗った。インドネシアに住み始めてから二年半。遠距離路線に乗った経験はあったが、都市内路線は初めてだった。
タナアバン駅を発車すると、線路沿いのバラックとも言える家並みの向こうにオレンジ屋根のカンプンが広がり、奥にはタムリン、スディルマン通りの高層ビル群がそびえ立つ。見慣れた光景だが、車窓から眺めれば新宿から東京都下へと向かう電車からの光景のようにも見える。
日本では通学・通勤に毎日使っていた電車。「カタンコトン、カタンコトン」というリズムが心地よい。乗車した電車は日本の中古車両で、「間もなくドアが閉まります」と、そのまま使用されている日本語のアナウンスも懐かしさを感じさせる。
目的の駅には二十分弱で到着。車だったら一時間ほどはかかっただろう。渋滞とクラクションの嵐によるストレスはなく快適な小旅行。時刻表通りといかないのは愛嬌の範囲内だ。
懐かしい振動に身を任せてふと思った。交通渋滞を問題だと声高に叫ぶのは、毎日車で移動できる身分だからなのではないか、電車を使えば済むだけの話じゃないかと。
と言っても悪化の一途をたどる渋滞は早急に解決しなければならない問題であるのは事実。肝心のビジネス街への電車でのアクセスは未整備で、日本が支援する MRT(大量高速交通システム)の完成を待たなければならない。
そして今日も私は、タクシーの後部座席に寝そべりながら家路へと着くのだった。(関口潤)