【アルンアルン】外資の触手伸びる銀行業
インドネシアには118行の商業銀行がある。従来は所有によって区別され、地場資本は国営銀行、民間銀行、地方開発銀行、外国資本は合弁銀行、外国銀行(外国銀行の支店)からなっていた。
しかし、最近は地場と外資の区別が難しくなっている。現在、地場民間銀行66行のうち28行は外資所有である。外為銀行に限れば37行中21行が外資であり、国営銀行を除く主要銀行は外資に占有されている状態である。
1997年にタイから始まったアジア通貨危機の後、国際通貨基金(IMF)指導の改革でインドネシアの市場は驚くほど外資にオープンになり、99年に外資は地場銀行の99%まで保有可能となった。一時国有化されていた主要銀行の買い手として外国政府系ファンドや外国銀行が名乗りをあげ、2009年には上位15行のうち国営4行と民間1行を除き全て外資となった。
外資による買収が行き過ぎたことから、中銀は12年に外資の出資比率を40%に制限した。しかし、弱小な銀行を減らしたい金融サービス庁は、外国銀行が最低二つの地場銀行を買収し統合する場合、40%を超えて所有してもよいことにした。そのため、外為業務を扱わない小銀行へも外資の手が伸びている。
韓国の新韓銀行はメトロ・エクスプレス銀行とセントラタマ・ナショナル銀行をそれぞれ40%取得し、ことし新韓インドネシア銀行に統合する予定である。中国建設銀行は、ウィンドゥ・クンチャナ国際銀行を買収予定だが、それに先立ちウィンドゥ銀行はアンタールダエラ銀行の株式を取得した。この他にも韓国のウリィ銀行やAPRO社、英HSBCなど外資による買収が目白押しである。
日本からは、07年に三菱東京UFJ銀行とアコムがBNPを共同買収。13年に三井住友銀行が40%を取得した国家年金貯蓄銀行(BTPN)を昨年住友商事が20%を得て第2位の株主となった。14年にはセンチュリー銀行を前身とするムティアラ銀行をJトラスト社が買収した。
インドネシアの銀行の株主資本利益率(ROE)は20%超、利ざやも5%超、貸し出しの伸びは10%以上が見込まれる実入りのいい産業とみられている。しかし、昨年末からことし5月にかけて貸し出しは0.3%しか伸びておらず、中央銀行を慌てさせている。
個別銀行の利益率は高いが、銀行貸し出しは国内総生産(GDP)の4割に届かず、国民の約半分が口座をもたない。一人当たりGDPがようやく3千ドルを超えたインドネシアにとって、今後銀行部門が果たすべき役割は大きい。こうした状況と、利益率が高く外資にとってうまみのある産業の間に、何か大きなミスマッチがあるように思えてならない。(濱田美紀・アジア経済研究所開発研究センター貧困削減・社会開発研究グループ長)