一発勝負の難関に挑戦 29日に国家試験 香川の介護士候補者3人
今月二十九日に日本各地で介護福祉士の国家試験が実施される。日本とインドネシアの二国間経済連携協定(EPA)の枠組みで、二〇〇八年にインドネシアから来日した九十人超の候補者が初めて試験に挑戦する。香川県の介護施設で働く三人に話を聞いた。
◇車酔いが心配
坂出市の施設で働くルーシーさんは大きな心配事がある。自動車での移動に弱いので、車に酔い高松市の試験会場に当日万全な体調で行けるのか不安だ。だから会場に歩いて行けるホテルに泊まりたい。高松市の施設で働く友人のティタさんを誘い、一緒にホテルを探すことにした。
昨年十二月末、ティタさんとJR高松駅で合流し観光案内所でホテルについて聞いた。会場から徒歩十分くらいの所にホテルがあることが分かったが、駅や繁華街周辺の宿に比べ料金が高い。二人でそのホテルを見に行き空室があることが分かった。一泊六千円かかるが、それはこれまで三年半の努力を無駄にしない安心料だと思い予約した。試験会場も下見し、ほっとしたルーシーさんに笑顔が戻った。
◇ふつうの漢字忘れた
ティタさんは施設で毎日二十人のお年寄りを風呂に入れ、おしめを替える。正月は休まず八日連続で出勤した。二年前過労で倒れ、救急車で病院に運ばれたこともある。好きな食べ物はたこ焼きとうどんと刺身で、高松弁でしゃべり、お年寄りの言っていることもほとんど分かるという。介護士の試験には一般の日本人でも読めない難解な漢字が出る。その漢字を覚えたら普通に使う漢字を忘れてしまいましたと苦笑する。
ティタさんと同じ高松の施設で働くヌリアさんは、二月に故郷のチルボンで結婚を予定している。試験に合格したら日本で勤務経験のある夫を呼び寄せ今の仕事を続けたい。しかし合否が分かるのは結婚式の後だ。将来が不安で気持ちが落ち着かない日々が続いているが、とにかく試験に受かりたい一心で毎日深夜まで受験勉強を続けているという。
◇合格を祈っています
彼女らは二十九日に一発勝負の試験に挑戦する。一緒に来日した看護師候補は毎年受験できたが、介護福祉士は三年間の実務経験が必要なため今回が初めての受験だ。日本人でも合格者が半数という難関の国家試験に不合格だと滞在資格を失い帰国しなければならない。インドネシア人の看護師候補は五%未満しか合格できず、これまでに五十人あまりが日本を去った。介護福祉士候補のハードルも低くない。
厚生労働省の試算では二〇二五年に全国で介護職が七十万人以上不足するという。高齢化で現在も日本人だけでまかなうことが大変だからこそ、日本とインドネシア両国がEPAに基づき、多額の税金を使って始めた国策なのに、難解な漢字の壁を取り払わず試験で落として帰国させていいのか。
「これまで各施設は多くの費用と時間を負担し、手探り状態で外国人介護士を支えてきました。お年寄りたちからとても頼りにされ、かわいがられているので、みんなで合格を願っています。今は祈ることしかできません」と施設の責任者は話す。
日本の暮らしに慣れ、日本を知り、日本が好きだからずっと暮らしたいという多くの人材を日本は簡単に追い返していいのか。日本側の危機感が足らないと思う。(香川県高松市で、紀行作家・小松邦康、写真も)