日本語漬けの6カ月 286人が事前研修終了 EPA看護師・介護福祉士候補 「日本で働けるチャンス」

 日本とインドネシアの経済連携協定(EPA)に基づく看護師・介護福祉士候補者の受け入れ事業で、日本での研修前に日本語予備教育を実施する日本語予備教育事業の第9期閉講式が25日、南ジャカルタ・スレンセンサワの教育文化省語学教育研修センターで開かれた。6カ月間の研修を終えた286人の候補者(看護師50人、介護福祉士236人)は、さらに日本で6カ月間の日本語研修を受け、12月から日本全国の医療機関や福祉施設に就労し、国家試験合格を目指す。

 国際交流基金ジャカルタ日本文化センターの塚本倫久所長が、各クラスの代表者に修了証を手渡した。看護師候補者で生徒会会長のヌルファンディさん(25)は、代表あいさつで研修を振り返り、涙ぐみ言葉に詰まった。「私たちの研修は終わりましたが、きょうが最後ではなく、最初です。国家試験に合格するために、一緒に日本でもっと頑張りましょう」と候補者に言葉を贈った。式では感極まって、手で目頭を押さえたり、涙をぬぐったりする候補者の姿があった。
 同研修では日本人24人、インドネシア人26人の計50人の教員が16クラスに分かれて指導。クラス分けテストを実施し、日本語能力がほぼ同じ候補者同士で学ぶ。看護師候補者と違い、介護福祉士の候補者は就労経験がなくても応募できることもあり、うち20〜30%が大学卒業後などに事前に日本語を学んでから参加しているという。
 授業は午前8時半〜午後4時ごろまでで、宿題をこなすために寮に戻ってからも勉強。日本語漬けの毎日で、候補者にとっては食事以外はほぼ勉強にあてるという厳しいスケジュールだ。
 同研修の教務主任を務める青沼国夫講師によると、「日本に行けばインドネシア語をわかる人はいない」と候補者に伝え、常に日本語で物事を考える癖をつけてもらえるよう、インドネシア語をできるだけ使用せずに授業をしてきた。毎週土曜は日本文化や習慣、マナー、交通事情などを学ぶ。また足を組まない、頬づえをつかない、携帯電話を使わないなどの授業態度についても指導してきた。
 青沼さんは「日本の受け入れ先の病院によって、対応はさまざま。国家試験に合格するには、自ら学習する習慣をつけ勉強する環境を整えることが大切。だからこそ、『自律学習』を掲げています」と話す。
 一方、インドネシア人の候補者は優しくて人当たりが良いだけでなく、パフォーマンスが上手だという。「謝恩会に招かれて驚いたのは、踊りや歌がまるでプロのようで、センスもとても良い。介護施設などで生かすことができる素晴らしい才能。また、優しさで患者さんや高齢者を癒やすことができると思う。私もインドネシアの方から介護を受けたいと思います」と期待を込めた。
 一方、候補者らは言葉の壁のほかに、日イで大きく異なる、宗教や気候、食べ物など生活に関わる心配事を抱えているという。第8期候補者などすでに渡日した先輩と連絡を取り、日本の情報を得ている候補者も多い。
 事前研修が「大変だった」と話すのは、中部ジャワ州トゥマングン県出身で、介護福祉士候補者のシギット・デディ・ウィバワさん(21)。
 6カ月間の研修中にホームシックになったこともあるという。「先生や、一緒に頑張っている友達に励ましてもらって乗り越えた。日本語の勉強が本当に大変で、専門用語や文法が難しい。毎晩、書いて、声に出して、覚えた」
 シギットさんは高校生の時、日本のアニメを見て日本に興味を持ち、日本語や日本について勉強したいと思うようになった。その後、友人から「日本で働けるチャンスがある」と聞き、同プログラムを知る。介護福祉士として日本で働きたいと思い、大学では看護学部で勉強した。
 「大学の研修で老人ホームを訪れ手伝いをしたとき、相手の喜んでくれた顔を見て、必ず介護福祉士になりたいと思った」と話すシギットさん。自分だけでなく他の人の生活をどのように手伝い、支えられるか考えていきたいという。「自分の家族だと思って、お年寄りのお世話をしたい。そして国家試験に受かったら、富士山に登りたい」と話した。 (毛利春香、写真も)

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