看護師 再挑戦(上) 言葉の壁だけじゃない 国家試験突破へ JAMNAが支援
「『熟眠障害』とはなんですか」。付箋が貼られた参考書を開くと、蛍光色のマーカーで線が引かれた色とりどりのページが目に入る。細かくインドネシア語で説明が書かれた手作りのノートは何度も読み返され、ぼろぼろだ。日本の看護師国家試験に再度挑み合格したいと勉強を続けるインドネシア人とそれを支える日本人がいる。
公益財団法人の日本アジア医療看護育成会(JAMNA)は、経済連携協定(EPA)に基づく看護師候補生として訪日したが、国家試験に合格できず帰国したインドネシア人の再受験支援を2012年から開始した。これまでに22人を支援、うち2人が正看護師、6人が准看護士の資格を取得。昨年度、合格した3人は准看護士として昨年8月から日本の病院で働き始めた。
正看護師に加え、都道府県知事が資格を与え医師や看護師の指示で補助などをする「准看護師」の両方の国家試験を受験する。日本では准看護師を廃止する流れもあり、准看護師の資格を得たインドネシア人も日本で働きながら、正看護師の資格取得を引き続き目指すという。
今年度の支援者は4人で、ジャカルタで働きながら勉強に励んでいる。JAMNAの小笠原広実研究員は8月から毎週末、勉強会を開き試験対策を続けてきた。これまでは日本語教師が教えていることが多かったが、看護師の経験に加え、看護大学で准教授を務めながら精神看護学の研究も進めてきた小笠原さんは「言語の壁」だけが不合格の理由ではないと話す。
日本政府は2008年、インドネシアから看護師と介護士の受け入れを開始。14年度はEPAで来日したインドネシアとフィリピン、ベトナムからの候補者のうち357人が受験。うち合格したのはインドネシア人11人を含む26人で、合格率は7.3%と13年の10.6%から低下した。日本政府はこれまで「日本語」が大きな壁であるとし、外国人向けに試験時間の延長や、問題文の漢字に振り仮名をつける特別措置を設けてきた。15年には試験の得点数など一定の条件を満たせば1年間の滞在期間延長を認めることも決まった。
小笠原さんは1995〜98年まで家族の仕事でジャカルタに在住。インドネシアでも看護に関わりたいと、当時インドネシア大学(UI)に開設されたばかりの看護学部に聴講生として在籍した。当時、看護学の修士課程を持つ人が少なかったこともあり、特別に聴講生として受け入れが決まったという。
精神科実習や精神看護学を学びながらインドネシアの病院に足を運ぶこともあり、日イの看護の違いを感じた。看護師候補者の受け入れ事業が決まった時、「日イの病院での看護師の役割は大きく異なる。同じ看護師だからという理由で日本に来てもうまくいかない」と強く感じたという。
2月14日に迎える看護師国家試験。合格を目指し奮闘する姿から見えたのは、「言語の壁」を乗り越えてもぶつかる、日イの看護現場の違いだった。(毛利春香、写真も)(つづく)