【アルンアルン】FTA交渉、焦点は非関税障壁に

 2015年11月5日、環太平洋連携協定(TPP)が大筋合意に達した。東南アジアからは、シンガポール、ブルネイ、マレーシア、ベトナムがTPPに名を連ねている。TPPの原型であるP4協定の加盟国であるシンガポール、ブルネイはさておき、従来の自由貿易協定(FTA)を超えた投資やサービスの自由化、ビジネス・ルールの整備を含む「21世紀型」のFTAと呼ばれるTPPにマレーシアやベトナムがどこまで対応できるのか注目された。
 特に、マレーシアではマレー系住民等に対する「ブミプトラ優遇政策」が大きな影響を受ける可能性があったため、マハティール元首相が自身のブログで「我々は再び植民地化されるだろう」と述べるなど、TPPに対する賛否両論が噴出していた。TPP交渉の妥結が間近とされた13年9月、ナジブ首相が優遇政策を再強化する「ブミプトラ経済活性化アジェンダ」を発表したこともあり、一時、マレーシアはTPPに熱意を失っているのではとの憶測も流れたほどだ。
 しかし、大筋合意後に全文が公開されると、マレーシアは「民族融和に配慮」というような婉曲的な表現ではなく「ブミプトラ優遇政策」とずばり明記した上で政府調達などからの例外扱いを獲得していることが判明した。同政策を守ることが国益であると定義するならば、マレーシアはTPP交渉においてうまく立ち回ったと言える。
 15年12月3日、マレーシア通産省はTPPのマレーシアへの影響についての分析結果を公表した。経済的には27年時点での国内総生産(GDP)が0・60〜1・15%上昇するとした。ただし、関税引き下げの経済効果は0・20%にとどまり、上積み分は非関税障壁の削減によってもたらされる見通しだ。一方、安全保障、社会、経済の三つの側面からの包括的な費用便益分析では、FTAは「差し引きすると」国益にかなうという慎重な結論が示された。全肯定・全否定ではすまない複雑な影響が見て取れる。
 現在、先進国・途上国を問わず、関税の引き下げが相当程度進み、FTAで関税が撤廃されることの経済効果は小さくなっている。一方で、関税率に換算すると数十%から数百%にも及ぶとされる非関税障壁の引き下げや、貿易・通関の円滑化が持つ重要性が益々大きくなっている。TPPにおけるマレーシアの例のように、今後のFTA交渉では、複雑化する「国益」をどう定義し、何を譲り何を得るのか、各国の分析力・交渉力が今まで以上に試されることになるだろう。
(JETROアジア経済研究所上席主任調査研究員・熊谷聡)

経済 の最新記事

関連記事

本日の紙面

JJC

人気連載

天皇皇后両陛下インドネシアご訪問NEW

ぶらり  インドネシアNEW

有料版PDFNEW

「探訪」

トップ インタビュー

モナスにそよぐ風

今日は心の日曜日

インドネシア人記者の目

HALO-HALOフィリピン

別刷り特集

忘れ得ぬ人々

スナン・スナン

お知らせ

JJC理事会

修郎先生の事件簿

これで納得税務相談

不思議インドネシア

おすすめ観光情報

為替経済Weekly