貧困率改善が停滞 9月11・13%に上昇
2007年以降低下を続けてきた貧困率(全国民に占める貧困層の割合)の改善が停滞している。15年9月の貧困率は前年同月に比べわずかながら上昇した。経済の低迷による雇用環境の悪化と食糧価格の上昇が貧困率の低下を妨げる障害となっている。政策提言機関や市民団体からは、経済情勢の悪化が続くと、貧困層が急増する可能性があるとし、政府の新たな対策を求める声が高まっている。
中央統計局(BPS)が4日に発表した昨年9月時点の貧困者数は2851万人(都市部1062万人、農村部1789万人)で、14年9月の2773万人から78万人増加し、貧困率は11・13%と前年同月の10・96%から上昇した。
ただ昨年3月の2859万人に比べると若干の減少、貧困率も同11・22%からやや改善した。
都市部の貧困率が8・22%だったのに対し、農村部は14・09%と6ポイント近い差があった。州別でも大きな違いがあり、最も高いパプア州(28・40%)と最も低いジャカルタ特別州(3・61%)では、8倍近い差がある。
スルヤミンBPS局長は貧困率が上昇した理由として、14年11月の補助金削減に伴う燃料価格の上昇と最近の経済低迷を挙げた。
同局長は、15年3月調査から貧困線(全国平均で1人当たり月34万4809ルピア)の算定基準となる調査方法の変更もあり、「今回は3月の数字と比べるのが妥当」と、低下傾向に変化はないと強調した。
農村部の貧困対策の柱としてことしから始まった村落法による交付金の住民への配布の遅れなどの政府の対応への批判に対し、「これから交付金の効果が出て来る。3月の貧困率を2%引き下げる効果がある」と述べた。
最近の貧困率の推移をみると、スマトラ沖大地震が起きた翌年の06年に18%近くに上昇したあと、低下傾向を続けてきた。特にユドヨノ政権下の07〜09年の3年間は年1・2ポイントのペースで低下、10年以降も年平均0・5ポイントで下落した。
専門家が心配するのは、いまは貧困線より上にいるが、ちょっとした変動で貧困層に落ちる可能性がある潜在的な貧困層の存在だ。
直近8月の雇用統計によると、雇用者数は1億2187万人と前年同月に比べ170万人増加したものの、失業率は5・94%と高い水準。景気の低迷で従業員を削減する企業が増えている。インフレ率も前年比で3%台に低下しているが、貧困層ほど一般物価より値上がりが大きいコメ、麦など食糧への支出の割合が大きいからだ。
民間シンクタンク、経済金融開発研究所のエニー・スリ・ハタルティ所長は、貧困層への支援は「喫緊の政策課題」と指摘。村落交付金の予算執行、社会支援カード、追加の食料支援など「既存の政府支援プログラムの迅速・効率的な実行が求められている」とし、複雑な行政手続きの簡素化、農村部支援のためには現場を知る地元への権限委譲が必要だ、と強調している。
貧困 インドネシアでは「コメ、卵、肉など52品目からなる1人1日2100キロカロリー相当の食費と、住居費、教育費、光熱費、医療費などの生活必需品を得るために最低必要な1カ月当たりの支出(貧困線)を満たせない」状態を指す。州により基準が異なり、時々の物価水準に左右される。昨年9月の場合、金銭表示では1人当たり月34万4809ルピア(全国平均)以下の支出しかできない層となる。政府は年2回、貧困者数と貧困率を公表している。世界銀行の2015年の「国際的貧困」の定義である「1日1・90ドル未満」を現在のレートで換算すると、月約60万ルピアが貧困かどうかの分かれ目となり、国民の半分近くが「貧困」に相当することになる。また都市部では貧困層が住民登録されていないケースが多く、実際の都市部での貧困率はもっと高いと見られる。(西川幸男)