「夢、いつかは家」 ジャカルタ沖で潜り続けるムール貝漁師

 人口2千万の巨大都市圏からごみや廃棄物を受け入れ続けるジャカルタ沖は、多くの零細漁師が小型木造船を使い伝統的な漁を営む場でもある。零細漁師の村の一つ、北ジャカルタ・チリンチンのハサヌディンさん(32)は金銭的理由から家族と離れて暮らしながら、一人で海に潜りムール貝を採り続けている。

 午前6時、チリンチンの数キロ沖。朝日が照らす色味のない海から、ゴーグルをはめたハサヌディンさんが顔を出した。頭にバンダナを巻き、上半身には「上中」と書かれた日本のものらしき体操服を着ている。水中でズボンが脱げないよう股間からひもを通して体操服の前後で固定、完全防備だ。
 ゴーグルは木製。ゴムバンドで固定する。口にはめた黒いカップのようなものは手作り呼吸装置。ダイビングで言えば、レギュレーターに当たる。カップからゴムチューブが30メートル伸びた先には空気ボンベがあった。船のエンジンを使って空気を海中にいる自らの肺まで送り込むのだ。
 潜ってから30分ほどで深さ7メートルの海底から腕いっぱいのムール貝を採ってきた。漁は午後1時まで続く。
 チリンチン住民の多くがハサヌディンさんのように船1隻を資本に生計を立てる零細漁師だ。「ここ数年漁獲量は減っているというのがムール貝漁師の共通認識」とハサヌディンさんは話す。1日の平均漁獲量は2年前の半分になった。「廃棄物か、生活ごみか、乱獲か、天候の変化か、原因は分からない。ただごみは増え、汚染も悪化している」という。
 数キロ沖の漁場まで海面の色は場所によって緑や茶色が混ざっている。ハサヌディンさんの「テルサンジュン号」は全長4.5メートルの木造船にエンジンを積んだだけ。小型の船ではあまり遠くまでいけないのだという。「俺だけが海をきれいに保とうとしても意味がない」。そうつぶやいて飲食品のビニール袋を投げ捨てる。
 夢はチリンチンに一軒家を買い、家族一緒に暮らすことだ。そのために10歳の娘は中部ジャワ州の妻の実家に預けて、妻はマレーシアへ出稼ぎに出ている。今は3カ月に1度、娘に会いに行くのが一番の楽しみだ。
 最低でも家を買うには6千万ルピアが必要だが、1度の漁で手元に残るのは10万ルピア。預金はたった50万ルピアだ。零細漁師の生活は厳しく、夢の実現は難しそうだ。
 「いつかは貯まると思って働くしかない。海は好きだし、そうでなければやってられない。汚くても」と苦笑して話した。(堀之内健史、写真も)

社会 の最新記事

関連記事

本日の紙面

JJC

人気連載

クナパくんとブギニ先生NEW

私のじゃかるた時代NEW

編集長の1枚NEW

キャッチアイ おすすめニュースNEW

インドネシア企業名鑑NEW

事例で学ぶ 経営の危機管理

注目ニュース

マサシッ⁉

天皇皇后両陛下インドネシアご訪問

トップ インタビュー

モナスにそよぐ風

HALO-HALOフィリピン

別刷り特集

忘れ得ぬ人々

有料版PDF

修郎先生の事件簿

メラプティ

子育て相談

これで納得税務相談

おすすめ観光情報

為替経済Weekly