東京五輪にイ選手を 全日本5連覇の豪傑 「武道で発展に協力」 「故郷」で空手指導の松崎さん
バンテン州南タンゲラン市で11月に開かれた第9回世界空手道選手権U21大会で、メダルを一つも取ったことのなかったインドネシアが金メダル4個を獲得、世界の注目を浴びた。背景にはインドネシアの空手界を支えてきたインドネシア生まれの日本人空手家の存在がある。
西ジャワ州バンドンに空手道場を開き、国軍の精鋭から孤児まで指導をしている空真流空手5段の松崎沢宣(さわのり)さん(37)。
空真流宗家・松崎宝龍さんの長男として東ジャワ州クディリ市で生まれ、バンドンで7歳まで育ち、1984年に日本に移った。日本で教育を受け、2007年に再び生まれ故郷のインドネシアの地を踏み現在に至る。
空手大会では全日本学生選手権、全日本空手選手権、国体空手大会、アジア大会、松濤館世界大会、全世界大会など、数々の選手権大会の個人・団体を制覇し金メダルを獲得。特に、社会人になって05年まで、全日本空手道選手権で5連覇を達成するという、前人未到の記録を持つ。
11月のU21大会では栗原茂夫・全日本空手道連盟副会長が松崎さんに、「そろそろ日本に戻らないか」と声をかけた。松崎さんは「先生、僕はこのままインドネシアに残り、やりたいことがあります。東京オリンピックまで立派なインドネシア人空手家を育成し、出場させたい」と答えた。
松崎さんを幼い頃から鍛えたのは父親だが、07年に戻ってから軍人たちを指導する厳しい環境が自己鍛錬になった。ジャカルタの陸軍戦略予備軍と大統領警護隊の精鋭隊員に合宿形式で空手を教え続けた。ラマダン(断食月)中は午後10時から翌日午前3時まで指導に当たり、午前4時に食事をし、礼拝後に隊員らとともに各自職場に戻るというハードなメニューをこなした。
現在は陸軍の戦略予備軍と特殊部隊の両司令官から要請を受け、18〜20歳の武道の才能のある兵士を選抜し、毎日午前5時から午後6時まで集中指導している。空手が採用される可能性のある20年東京オリンピックのためだけではなく、世界選手権でもインドネシア人選手がメダルを取ることを目指している。
松崎さんは「インドネシアは空手人口だけで2千万人。他の武道も入れると世界最大の武道大国。自分は武道を通じてこの国の発展に協力したい。武道を通じて、貧しい孤児でも成長することができ、人材を育成したい」と抱負を語った。
インドネシアでは空手道のほか、柔道、合気道、少林寺拳法、剣道、柔術、インドネシア武術プンチャック・シラットが盛ん。松崎さんは、武道を通じた人材育成のために武道大学の創設が必要と話す。関係者が設立に向けて動いている。(濱田雄二、写真も)