「日本に戻りたい」 看護師・介護福祉士候補生 帰国後の情報収集が課題 就職説明会
日本とインドネシアの経済連携協定(EPA)に基づく看護師・介護福祉士受け入れ事業で、帰国したインドネシア人候補者の再就職を支援するため、在インドネシア日本大使館は2日、南ジャカルタの保健省保健強化センターで就職説明会を開いた。ことしで5回目で、帰国した候補生ら約30人と日系企業や医療機関など約25企業・機関が参加した。
国家試験の不合格者や家族の希望で帰国する候補生は多い。2009年に訪日したサンティさん(36)は12年に結婚、13年にインドネシアへ帰国した。看護師の国家試験に合格できず、今後は給料が高く日本語を生かせる日系企業で働きたいという。
参加した日系企業側も日本語が話せ、日本の文化や習慣を学んできた候補生らに注目。医療機器やリハビリ機器などを販売するオージー技研は、約30年前から医療機器などをインドネシアへ輸出してきた。昨年、インドネシアに初めて現地法人を設立。海外営業部の馬崎真光課長は「日本で看護や介護を経験したインドネシアのスタッフに、現地の病院などで医療機器の提案をお願いしたい」と話した。
同事業では日本国内での定着率の低さが問題点として取り上げられるが、日本に戻りたいと話す候補生も多い。インドネシアで看護師として5年間働いていたディアナさん(34)は、09年に訪日し12年に看護師の国家試験に合格。北海道・帯広の病院で3年間働いた。母国で働きたいと思い、ことし帰国したが、来年1月には徳島の病院で看護師として働くため日本に戻る。
「日本は住みやすく給料も良い。そして何より患者さんに対する考え方がインドネシアとは違う。インドネシアでは看護師は患者の希望ばかり優先するが、日本では病気を早く治して元気になってもらえるようリハビリを促すなど、本当に患者さんのことを考えた治療のお手伝いができる」と話した。
サエフルさん(40)も日本へ戻りたい候補生の1人だ。10年に介護福祉士を目指して訪日したが試験に合格できず、ことし帰国。来年の介護福祉士国家試験にはすでに応募している。「日本語を忘れないようにするため、日系企業に勤めたい。日本の技術は新しく環境もとても良い。家族みんなで日本で暮らせるようにしたい」。今は生活のためにインドネシアで働くことが最優先だが、将来は小学生と中学生の子ども2人にも、日本で学んでほしいという。
2008年に開始した同事業で、これまでに受け入れた候補生は看護師547人、介護福祉士966人の計1513人。合格者数は看護師が98人、介護福祉士が214人の計312人だった。候補生は訪日後にインドネシアへ帰国する際に日本政府へ知らせるが、国家試験に合格できなかったり結婚など家族の事情で帰国したりする候補生のほか、一時帰国した後に日本へ戻る場合もあり、帰国してインドネシアで働いている候補生の数や状況を把握するのは難しい。連絡先がわからなくなることも多いという。
一方、候補生は新たに訪日する候補生らと通信アプリのLINE(ライン)などを通じて、日本での生活環境や働いていた病院などの情報を共有。訪日前の候補生が日本で受け入れ先となる病院などとのマッチングの際に役立てている。
在インドネシア日本大使館の本多信一郎一等書記官は「帰国した候補生の情報収集は今後の課題。一方で候補生の先輩らが、看護師や介護士を目指す後輩のために、訪日しやすい環境をつくってくれている」と話した。(毛利春香、写真も)