高校生の技術力に賛辞 慎重な議論求める声も  「悲願の国産車」報道過熱

 中部ジャワ州ソロ(スラカルタ市)の高校生と個人経営の自動車整備・販売会社のキアット・モーター社が乗用車「キアット・エスエムカ」を製造したのを受け、高校生の高度な技術力をたたえるとともに「悲願の国産車」事業の再開を訴える声が出ている。堅調な経済成長を背景に東南アジア最大の自動車市場を抱えるに至ったインドネシアだが、多大な財政負担を強いる国産車事業は一九九〇年代、スハルト政権下で挫折したことがあり、慎重に議論すべきとの意見が根強い。

 「国産車」製造をめぐる一連の騒ぎは、ソロのジョコ・ウィドド市長が二日、同市の職業訓練高校二校とキアット・モーター社が製造した乗用車を公用車に採用すると発表したのが発端。高校生の学習意欲と技術をたたえ、公邸の前庭でエスエムカを公開。見物や試乗に訪れる市民でにぎわっている。
 東南アジア最大の自動車市場と脚光を浴びるインドネシアで、エスエムカを悲願の国産車製造の礎石にすべきだとの声も続出。ユドヨノ大統領をはじめ閣僚や国会議員からも賛辞が相次ぎ、ムハマッド・ヌー教育相は「職業訓練高校の自動車製造プログラムを推進し、資金を提供してきた側の一人として誇らしく思う」と胸を張った。
 アグス・マルトワルドヨ蔵相は「エスエムカの部品や技術などを調べ、税制面でどのような支援が行えるか検討していく」と表明。経済担当調整相事務所のエディ・プトラ・イラワディ工業商業担当次官は、エスエムカの二割を占める輸入部品の免税や奢侈税撤廃、燃料費減税などの優遇措置が考えられると説明した。
 ヒダヤット工業相は「エスエムカは排ガス検査や許認可などの手続きを経なければならず、商品化までには時間がかかる」との見通しを表明。しかし、国産車製造に前向きなユドヨノ大統領の意向を受け、工業省はエスエムカをはじめ村落用の「低価格グリーンカー」の生産を支援していると強調し、「国産車はオルデバル(スハルト政権)当時に失敗しており、次回は失敗できない」と語った。

■農園や森林に有用
 エスエムカに先駆け、二〇〇八年以降、二人乗りの四輪車「コモド」を製造、販売してきたFINコモド社のデワ・ユニアルディ氏は「国産車は巨額の資本や高度な技術を持つ外国企業との競合を目指すのではなく、農園、森林、鉱山分野の企業や農村などでの国内利用を念頭に置くべき」と話す。
 同社のコモドは三気筒、排気量二五〇CCのエンジン、オープンカーで七千万ルピア。月産約十台という。デワ氏は低金利の企業融資、ローンなどの具体策を講じてほしいと政府に要請した。
 スーパー・ガシンド・ジャヤ社の「タウォン」は五人乗りで四千八百万ルピア。インカ社の「ゲア」は四千―七千万ルピアで、バイオ燃料を使用。地方自治体などから受注しているという。
 インドネシアでは一九九〇年代、スハルト元大統領の三男トミー氏が国産車「ティモール」の販売を手掛けた。数々の優遇措置を受け、国家事業として展開、スハルト一族のファミリービジネスと批判され、九八年の五月暴動では暴徒の標的になった。
 ティモールは実際、韓国の起亜自動車から持ち込んだ車両にティモールのブランドを冠しただけで、国内生産に至らず、九七年以降のアジア通貨危機の影響などで事業中止に追い込まれたため、多大な財政負担を強いる国産車事業の再開に否定的な見解も多い。
 今回の国産車騒動について、インドネシア自動車工業会(ガイキンド)幹部のリズワン・アラムシャ氏(クラマ・ユダ・ティガ・ベルリアン・モーター=KTB=社取締役)は、地元紙に対し「国産車生産には長い時間がかかる。大規模な投資も必要となり、リスクも少なくない」と指摘。部品生産継続の保証など、さまざまな調査が必要と説明し、愛国心を鼓舞するだけではなく、慎重に議論するよう促している。
 専門高等学校向けに訓練講座開設や講師派遣、備品供与を行うなど、インドネシアでの若者の技術促進を支援してきたトヨタ・モーター・マニュファクチャリング・インドネシア(TMMIN)社の野波雅裕社長は「若い世代が技術の向上に向けて頑張っているのは素晴らしいこと。トヨタも現地調達率の引き上げに注力しており、負けないようにしたい」とコメントした。

◇1500ccのSUV、エンジン部品も製造
 車製造は、優秀な技術を持つ各地の職業訓練高校(SMK)を指定し、実施している教育文化省のプログラムの一つ。中部ジャワのスラカルタ第二、スラカルタ市民職業訓練高校が完成させたSUVの「キアット・エスエムカ」は七人乗りで、全長五〇三五ミリメートル、車幅一六九〇ミリメートル、車高一六〇八ミリメートル。直列四気筒、一・五リッターのエンジンを搭載し、百五馬力、一五〇〇ccと、一般的な乗用車とほぼ同じ。価格は九千五百万ルピア(約八十万円)。
 パワーステアリング、自動開閉窓、空調なども搭載。ベージュ色の内装で、木製のパネルをダッシュボードに採用した。リッター当たり、市内では十二キロメートル、市街では、十三・五キロの燃費という。
 ソロの高校生を指導したのは、地元の自動車整備会社キアット・モーター社を経営するスキヤット氏。同社は車の塗装や修理をしていたが、二〇〇七年、高校生たちと日本製のセダンをSUVに改造。これが地元役人の目にとまり、職業訓練高校の車製造プログラムの指導教官となり、約二十人の高校生とエスエムカを完成させた。
 部品の八割は国産で二割は輸入。エンジン部品の一部はジャカルタ第一職業訓練高校が製造し、ソロに提供した。同校はインドネシア科学オリンピックの物理部門で入賞し、車製造プログラムの参加資格を得た。スラカルタ第二職業訓練高校教員のドウィ・ブディマルトノ氏は「七人乗りの日本車に近いエンジンができたが、加速やパワーの面でまだ不十分だ」と語る。
 エスエムカに試乗した地元メディアの記者は「ギアを変えるのに力が必要。アクセルの踏み具合に比べ、加速するのが急だった。おおかた快適なドライブを楽しめたが、高速道路を走るのには勇気がいるかもしれない」とコメントした。

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