学生と交流、交響楽団に 在パリ指揮者・阿部さん設立 ジョクジャの芸大生70人と

 ジョクジャカルタで音楽指導を続けているパリ在住の世界的指揮者、阿部加奈子さんがこのほど、インドネシア芸術大学(ISI)の学生70人からなる学生オーケストラ「インドネシア・ユース交響楽団(IYSO)」を立ち上げ、初の演奏会を行った。「いずれはプロに育てたい」と話す阿部さんに、インドネシアへの思いを聞いた。 

 きっかけは2011年の東日本大震災のとき、パリで行ったチャリティーコンサート。この模様をネットで知ったISIの教授から「わが校の学生たちを指導してほしい」と頼まれた。阿部さんはISI関係者とはまったく面識がなかったが翌12年、思い切ってジョクジャを訪問。「外部の指導者を待ち望んでいた」という学生たちに大歓迎された。クラシック音楽の技能はまだ不十分だったが、小学校で伝統楽器ガムランを演奏した経験を持つ学生たちの音楽センスは抜群だったという。
 パリに戻った後も学生たちから毎日のようにメールが届き、チャットなどで質問に答えてきた。彼らの熱意に心動かされ13、14年もジョクジャを訪れ、音楽指導に当たり、コンサートでは指揮した。交流を積み重ね同年、IYSOの設立につながった。
 今年は演奏会を控え、集中トレーニングとリハーサルの特訓に臨んだ。「私が(ジョクジャに)行くまでは、学生たちはネット動画を参考に独習しかしていない状態だった」と阿部さん。8月には地元の文化施設「ブンタラ・ブダヤ」でコンサートを実現することができた。
 阿部さんは、ジョクジャに来て学生たちと触れ合い、強い絆が生まれたと手応えを感じている。「音楽教育がまだ確立されていないインドネシアでゼロから立ち上げ、彼ら自身が次の世代につなげられるよう協力、支援していきたい」
 また「交響楽団の基本は教育だ」という阿部さん。「音楽だけでなく人間としても成長し、社会に羽ばたいてもらいたい」と若い演奏家たちに期待する。
 第1チェロ奏者で学生代表のアルフィアン・エミール・アディティヤさんは「阿部先生はとても家族的で、私たちにとっては母親のような存在。やさしく、時に厳しく指導してくれる」と信頼を寄せている。(濱田雄二)

◇ 【プロフィル】阿部加奈子(あべ・かなこ)1973年、大阪市生まれ。東京芸大作曲科を卒業後、パリ国立高等音楽院で指揮、和声など七つのクラスを修了。パリ在住の指揮者として世界中で活躍している。

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