【火焔樹】良い習慣は才能を超える
某テレビ局の社長を訪ねたときのこと。社員食堂でランチに誘われた。社長は、自分の食器を持参していた。「うちの会社は、食器は全社員持参なんだ」と自慢げに話した。
それだけでも驚いたのに、食事が終わると、社長は食器を持って「一緒においでよ」と言った。ついていくと、蛇口がたくさんある長い流し台があり、社員がお皿を持って順番を待っていた。なんと、自分が使った食器は自分で洗うのだ。
日本でもこういう光景をたまに見かけたことがあるが、インドネシアでは初めてだった。皿洗いは、女中さんや身分の低い人のやることと思われている社会の中で、社長が率先し、従業員全員が自分のお皿を洗っている。社長いわく「自分のことを自分でやるのは当然だ」とほほ笑んだ。
5月の縁日祭には、テレビ局の社員30人をごみ拾いボランティアとして派遣してくれた。災害が起こった時などは、社員で構成する応援隊を派遣しているようだ。「災害状況を伝えるメディアの責務を果たす一方で、ただカメラを回すだけでは、心が痛む」と真剣なまなざしだった。
歯に衣着せぬ物言いでジャカルタ改革の先頭に立つアホック州知事と、自分の信念をビジネスに反映させているこの社長の共通点は、自ら率先して見本を見せ、社会や組織に良き習慣を広げようとしているのだと思う。今までいなかったタイプのリーダーの下、インドネシアは変わろうとしている。
お掃除クラブの活動は単純そのもの。黙々とごみを拾い歩くだけ。「何の意味があるの」と、皮肉る人もいるが、むしろ本望。そう言われれば言われるほど、それがバネになった一面もある。
「良い習慣は才能を超える」と言った人がいた。僕たちから先述2人のような人物に続くリーダーたちが育ってほしい。それが実現したならば、僕にとって、男子の本懐以外の何物でもない。
(ジャカルタお掃除クラブ代表 デワント・バックリー)