人と人とを結ぶ 神様からの贈り物 生け花を教え40年 タヅコ・ナピトゥプルさん

 「日本人として何のためにインドネシアに嫁いだのか、よく考えたの」。タヅコ・ナピトゥプルさん(75)は、28歳で結婚したインドネシア人の夫と来イ。日本の良さや文化を知ってほしいと、1960年代から40年以上にわたり、インドネシアで生け花を教えている。            
 タヅコさんは秋田県出身で、幼い頃は絵の先生になるのが夢だった。絵の教室に通う傍ら母親に勧められ、中学生の頃から生け花を習い始めた。短歌や書道、茶道、日本舞踊も学んだ。 
 高校卒業後、専門的に美術を学びたいと東京の文化学院大へ進学。東京大の大学院に通っていた夫と知り合い、28歳で結婚。インドネシアへ渡った。「海外での生活は楽しいと言い聞かされて異国の地に嫁いだら、実際は文化も何もかもが違って苦労した。だけど、人生は冒険よ」と当時の苦労を笑い飛ばす。
 ジャカルタで生活を始めたタヅコさんは、日系企業が持つ社宅を管理する仕事に就いた。多趣味なタヅコさんは、空いた時間にインドネシアで日本文化を教えようと思い立ったという。「茶道や短歌も考えたけれど、花をきれいだと愛でる気持ちは世界共通だと思い、生け花を選んだ」。偶然、同じ社宅に未生流の師範資格を持っている駐在員の妻がおり、継いでほしいと頼まれ、勉強。師範の資格を取った。
 未生流として生け花教室や講演会を開いた。生け花に使う花を探すために足を運んだ花屋でも生け方を教えた。ホテルのロビーや別荘、パーティーなどで花を生けることも多く、花を通じて人とのつながりが増えたという。(毛利春香、写真も)

□その日の美しさ大切に
 インドネシアでは生け方も日本と違う。生徒の99%は必ず赤い花を選ぶ。次に人気があるのは黄色で、強い色の花を並べて生ける人がほとんど。またお喋りして大声で笑いながら生けるという。
 「生け花を通じて人とのつながりも大切にする。日本から訪れた家元も、こちらで教えるのは楽しいと言います」
 タヅコさんは花は自然に生けることが大切だと話す。「色の組み合わせはもちろん、一つの花をたてる大切さや、奥行きを持たせ後ろに隠れて咲く花に美しさがあることも教えている。また生け花では花だけが主役ではなく、葉や枝も『花』。緑だけの生け花も美しいですよ」
 タヅコさんの教室では、生ける花を決めない。同じ花でも昨日と今日では咲き具合が違い、その日一番美しい花はその日にしか分からないからだ。「その日咲いたばかりの花を使い、自然の美しさを大切にしながら生けるのが一番良い。毎日、違った花に出会うからこそ、何十年やっても飽きない」
 「花は白で生まれたら死ぬまで白。純粋でしょう。生徒には花を好きになるということは、神様からいただいた自然を尊敬するということだと教えているの」と話す。「日本人の良さを知ってほしいと始めたが、花のおかげで異国の地でたくさんの人と知り合えて、本当に良かった」と振り返った。

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