外国人ら8人死刑執行 豪州は大使召還へ フィリピン人直前に延期 出身国反発
インドネシア政府は29日未明、中部ジャワ州チラチャップ沖のヌサカンバンガン島で、オーストラリア人やナイジェリア人など、外国人薬物犯7人とインドネシア人1人の銃殺刑を執行した。アボット豪首相が駐在インドネシア大使を召還する考えを表明するなど、出身国政府は強く反発しており、外交的な亀裂は深まっている。執行が決まっていたフィリピン人死刑囚については、事件関係者がフィリピンで逮捕され、捜査に協力する必要がでてきたとして、執行を延期した。
最高検によると、死刑囚は豪州人2人とナイジェリア人3人、ブラジル人とインドネシア人、ガーナ人が各1人だが、ガーナ人はナイジェリア国籍だとする情報もある。午前0時半ごろ同時に執行し、医療担当官が死亡を確認。プラセティヨ検事総長は直後の会見で「刑は成功裏に執行された」と発表した。
最後まで死刑回避を求め続けた出身国政府は反発を強めている。アボット首相は「処刑は不必要かつ、むごたらしいものだ」と非難。「この数時間になされたことによって、両国関係は傷ついた」と述べ、週内にも駐インドネシア大使を帰国させる考えを示した。
ジョコウィ政権がブラジル人を処刑するのは1月に続く2人目。今回執行されたブラジル人死刑囚は、心身の不調を訴えており、同国政府は「ルセフ大統領による人道主義的な嘆願に、インドネシア政府は注意を払わなかった」との声明を発表。セルジオ・ダネジ外務副大臣は現地メディアに「嘆願の処理について、満足のいく説明を受けていない。両国関係を見直す」と言い切った。
外国人受刑者の処罰をめぐっては、過去にも国内外で論争が起きている。大麻密輸の罪に問われた豪州人女性の減刑処分を決めたユドヨノ前大統領は、厳しい国内世論にさらされた。昨年10月の発足以降、支持率低下が続くジョコウィ政権にとって、「外国に対して弱腰」との批判は避けたい事態といえ、難しい判断を迫られたのは間違いない。
プラセティヨ検事総長は刑執行を「決して楽しい仕事ではないが、国家の存続を脅かす恐るべき薬物犯罪と戦っている」と強調。レトノ外相は「豪州は重要な国であることには変わりないし、豪州にとってもインドネシアは重要なパートナーだ」と述べた。
一方、処刑されなかったフィリピン人について、プラセティヨ検事総長は「刑の取り消しではない。フィリピンでの刑事手続きに関連する機会を与えただけだ」と説明した。
死亡した8人は生前に示した希望に基づき、豪州人2人の遺体は同国内で、他の6人は西ジャワ州ブカシなどで埋葬される見通しだ。(道下健弘)