防災スピーカーを試験導入 日本無線 ジャカルタ特別州で初
日本無線(東京都中野区)は12日から、ジャカルタ特別州防災局(BPBD)と共同で、州内の洪水が頻発する5地域に、計15基のスピーカー警報システム「ディザスター・ワーニングシステム」の設置を始める。州内でのスピーカー警報システム導入は初めてで、防災対策をハード面で補い、災害から人命を守ることに役立つことが期待される。設置完了は21日、試験的に26日から稼働する予定だ。
日本無線ジャカルタ駐在員事務所の屋代芳彦所長によると、日本無線とジャカルタBPBDはスピーカー警報システムの試験導入の契約を昨年10月に結んだ。州は今年、スピーカー警報装置100台を購入する予定で、3月に一般競争入札を行う。日本無線は今回の試験導入で現地の情報を収集し、入札にも参加する考えだ。
屋代所長は、2004年12月26日に発生したスマトラ島沖地震・津波の翌年1月にアチェ州へ行き、被災地を視察した。屋代所長は現場で、子どもや高齢者らが携帯電話などの連絡手段を持っておらず、逃げ遅れたとの話を聞き、緊急時の情報を幅広く共有できるサイレンが必要だと感じたという。
また内閣府のデータによると、11年3月11日に発生した東日本大震災では、スピーカー警報システムがテレビやラジオなどと比べ、速報性に優れていた。日本無線は日本での実績も生かして、警報システム導入を洪水に悩むジャカルタ特別州に持ちかけた。
■洪水対策5地域に15基
日本無線とBPBDは共同で、洪水など自然災害について調査・研究を進めてきた。スピーカー機器設置箇所はBPBDの統計データをもとに、洪水被害が大きいチリウン川付近の東ジャカルタ・ビダラチナやカンプンムラユ、アンケ川付近の西ジャカルタ・ラワブアヤなど計5地域にすることで合意した。対象地域のモスクや村長宅の屋根など、電源とセキュリティーが確保されている場所に限定して3基ずつ設置。BPBDからの洪水警報だけでなく、洪水発生後の支援物資の到着や医師の訪問予定といった情報もスピーカーを通じ発信する。
スピーカー機器は、日本の県や市町村で使われているものと同じモデルで、1基につき半径300メートルの範囲の住民に情報を知らせることができる。回線は携帯電話などの通信で使用されている一般的な回線GSMと、同州BPBDが確保した国の防災用回線VHFの両方を使用する。
GSMはインドネシア国内の大手通信社テレコムセルの回線で、携帯電話利用者も使用するため、緊急時に混み合うが、常時つなげられることが利点だ。VHFは回線が混み合うことはないが、電波塔がない場所ではつながりにくい。両回線を使うことで、回線の使用不能を回避できる。回線を確実につなぐにはVHF専用電波塔の新規設置も同時に進めていく必要がある。
屋代所長は「単に日本から機器を持ってくるだけでは、インドネシアの防災は不十分」と指摘。災害時の空き巣を警戒する住民たちは、自宅から避難しようとしない傾向もある。
このため、インドネシア人の防災意識を高めるなどのソフト面も重要で、日本無線はスピーカー設置後、災害の恐怖を伝えるイベントや防災訓練といった啓もう活動を実施する考えだ。(山本康行、写真も)