震災の経験、世界に発信 アチェ代表団が出席 来年3月仙台で国連の防災会議

 2004年12月26日に発生したスマトラ沖地震・津波の10年間の復興について報告しようと、アチェの代表団が来年3月15日から仙台で開かれる第3回国連防災世界会議に参加することが分かった。東日本大震災や阪神・淡路大震災などとともにアチェの経験と教訓を世界に発信する。

 アチェ訪問中の田中泰雄教授(神戸大学、マレーシアのトゥンク・アブドゥル・ラフマン大学)が21日までに明らかにした。国連防災世界会議には、バンダアチェの国立シャークアラ大学のサムスル・リザル学長や、同大の津波防災研究センター(TDMRC)の研究者らが参加する予定。
 豊橋技術科学大学に留学した経験を持つサムスル学長は「バンダアチェ市民の半数が直接被害を受けた。津波をきっかけに30年にわたる分離独立紛争が終結したが、復興再建には問題も多い」と指摘。国連会議を通じ、東北をはじめ各地の被災者の参考になることもあるはずと意欲を示す。
■研究センター設立
 田中氏は神戸大学の都市安全研究センター長として復興再建に取り組み、震災から10年の2005年、神戸で開かれた第2回会議で経験を報告した。
 アチェ津波発生直後は、神戸の経験をアチェで生かしてもらおうと現地入りした。津波は神戸の震災10周年の3週間前に発生した。国連会議の準備を進めていた時期だった。
 支援活動に来た外国人の助言もあり、アチェに津波防災研究センターを設立することを提案。元日本留学生の多いシャークアラ大学の工学専門家らを神戸に招くなどした後、06年に開設した。
 田中氏は「震災直後は世界から支援者や研究者が押し寄せるが、ある時期を過ぎると帰ってしまう。拠点を作ることで持続する関係を築きたかった」と話す。
 TDMRCは国際的な交流の拠点として防災・減災研究に取り組むほか、地域住民への防災教育をしてきた。またシャークアラ大学には兵庫県の寄付で校舎が造られ、そこへジョクジャカルタのガジャマダ大学(UGM)に次ぐ国内で2番目の防災学の修士課程を開設。アチェから世界に向け経験を発信する素地づくりを進めてきた。
■100年後へ残す
 だが問題は山積している。インドネシアでは07年に災害対策基本法が制定され、法的な枠組みができたばかり。全国23の県・市に防災局(BPBD)が設置されたが、本荘雄一・神戸都市問題研究所常務理事は「対策を具体化する人材や資金が不足している」と指摘。田中氏は「復興は個々の思いだけではできない。ネットワーキングを通じて知恵を絞り、システムを構築していくことが重要だ」と強調する。
 新しい課題もある。10年が経過し、震災・津波経験者も減っていく。次世代に経験をどう伝えていくか。神戸大学ではデジタルアーカイブとして「震災文庫」を開設。災害一般、法律、経済、行政から、市民生活、芸術・文化、文芸などのカテゴリーに分別し、記事や写真をウェブ上で公開している。田中氏は「大学と政府が連携し、100年後にも残るアーカイブをつくり、市民に広めていくことが重要だ」と話した。(配島克彦、写真も)

国連防災世界会議 

 国際的な防災戦略について議論する場を設けようと、日本政府が提唱し国連総会で決議された。横浜(1994年)、神戸(2005年)で開催され、3回目の仙台では国連加盟国193カ国、国際機関、自治体、諸団体など国内外から延べ4万人以上が参加する見込み。東日本大震災の経験や教訓を発信し、交流拡大を通じ復興の後押しも期待されている。

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