未成熟の生命保険に着目 日系大手  攻勢強める 日本の30分の1  市場規模7%成長

 日系大手生命保険会社がインドネシアで攻勢を強めている。世界4位の人口を持ち、中間層の増加が著しい一方で、生保市場は日本の約30分の1と、開拓の余地が大きいためだ。「まだまだ中間層以下の生命保険に対する認識は低い」(日系生保幹部)のが現状で、生命保険の認知度を高めることが共通の課題となっている。

▼窓販も代理店も
 三井住友海上が11年7月に50%出資した「シナールマスMSIG生命」は日系生保が出資した中で最も上位に位置し、昨年の生命保険料収入は業界2位。銀行を通した窓口販売を強化しようと、今年8月に富裕層に強いビクトリア銀行と提携した。銀行窓販が保険料収入の過半を占めるが、代理店の販売員も1万人を超える。
 日本生命が今年10月に20%相当の出資を完了した「セクイス生命」は代理店営業に強みを持つ。代理店の販売員は1万1千人を超え、国内有数の規模を誇る。
 銀行窓販で突出するのは住友生命が出資した「BNIライフ」。同社はインドネシアの大手国営銀行のバンク・ヌガラ・インドネシア(BNI)の生命保険子会社。約1600支店のうち、10月末時点で793の支店で販売を展開。「今後、銀行窓販チャネルの強化を経営の最重要戦略に位置づける」(BNIライフ幹部)とし、取り扱い支店を増やす戦略を立てる。
 第一生命が出資した「パニン第一生命」は代理店チャネルと銀行窓販の保険料収入がほぼ1対1とバランスが良い。日系生保の出資先では2番目の生命保険料収入を誇る。同社はアニメキャラクター「ドラえもん」を学資保険のイメージキャラクターに活用。日本で生命保険各社がアニメキャラクターを使用してイメージ戦略をしているが、インドネシアでは初めての試み。
 明治安田生命が出資した「アブリスト」は以前にも外資企業が出資していたため、合弁での事業展開に抵抗感はない。明治安田生命は昨年12月に出資比率を23%から29.87%に引き上げた。企業など法人向け団体保険の生命保険料収入の割合が高い。
 東京海上ホールディングスはMAA生命への出資比率を徐々に高めメジャー株主となり、社名を「東京海上生命保険インドネシア(TMLI)」に変更。CEO(最高経営責任者)に日本人ではなく、現地事情に詳しいデビッド・ジョン・バイノン氏を招き、現地市場に即した事業展開を進める。
▼GDPの1.6%
 すでに、米欧大手生命保険会社が多数進出するインドネシアに日系生保の進出が続いた背景には、日本国内の生命保険市場が飽和状態という一面がある。生命保険の世帯加入率(個人年金保険を含む)が9割を超える(生命保険文化センター調べ)ほか、人口減社会が市場の縮小に拍車をかけている。
 大手再保険会社スイス・リーの調査によると、2013年の生命保険料収入で、日本は4227億ドルで前年比15%減少した(米ドル基準)。インドネシアの生命保険市場は141億ドルで、日本の約30分の1ほどの市場規模だが、前年比7.6%上昇した。
 生命保険の浸透率を図る指標である「GDP(国内総生産)に占める生命保険料収入の割合」を見ると、日本は生命保険料収入がGDPの8.8%を占め、台湾や香港などに次いで市場に浸透している。インドネシアは1.6%ほどで、生命保険市場が未成熟であることがうかがえる。
▼富裕層向け先行
 インドネシアの生命保険市場の戦略として、富裕層向けの貯蓄型保険商品が先行している。国内生命保険協会(AAJI)は生命保険の区分を「ユニットリンク」と呼ばれる変額保険と、医療・定期・終身保険などを総称する「伝統的保険」の二つに区分している。2013年の総保険料収入に占めるユニットリンクの割合が54.6%で、伝統的保険が45.4%と、ユニットリンクが過半を占めている。各生命保険会社の販売割合をみても、ユニットリンクが主流となっている。
 主な生命保険の販売チャネルは代理店販売と、銀行の窓口で販売する銀行窓販だ。13年の国内生命保険協会の販売チャネル別調査によると、代理店が45.5%で最も大きく、次いで銀行窓販が37.1%だった。
 日本の生命保険市場と比較すると、顧客が直近に生命保険に加入した販売チャネルは「生命保険会社の営業職員」が68.2%(13年度、生命保険文化センター調べ)で最も多かった。
 生命保険協会の調べによると、13年新規契約件数は医療保険が383万件(26.6%)で首位、新規契約高では定期保険が首位で29兆円(43%)だった。保障を重視する生命保険商品が主なウェイトを占めている。 
▼販売員を教育
 業界1位は1995年にインドネシアに進出した英国大手プルデンシャル生命。米欧の大手生命保険会社は日系生保に先んじて、インドネシアに進出。業界上位の地位を確立している。
 日系生保幹部は「生命保険料収入が全てではない」とし、「生命保険の重要性を伝え、平準払い保険の新規契約件数を増やすことが大切になってくる」と話す。月額などの平準払い保険は一括でまとまった保険料を支払う一時払い保険と異なり、保険料収入の共石に見えにくい。しかし、平準払い保険の顧客を増やすことで、確実に保険料収入を積み増しできる。
 月額・年額で支払う平準払い保険の顧客は富裕層だけでなく、中間層以下にも潜在性がある。「保険が従来持つ保障の重要性を伝える力が重要(日系生保幹部)」とする中、シナールマスMSIG生命は昨年8月に販売員向け研修施設を新設するなど、各社とも販売員の教育に力を入れている。
 国内生命保険協会は今後、14〜18年まで20〜30%保険料収入が増加するとみている。だが、今年は苦戦を強いられている。国内生命保険協会の発表によると、上期の生命保険料収入は53兆ルピアで前年比2.5%減少に転じた。ヘンドリスマン会長は「新規契約分の保険料収入が前年より落ちた」と説明した。原因は「大統領選挙を前に、顧客は生命保険の加入に控えめだった」(日系生保幹部)。潜在性は高いが、景気動向に左右されるのが現状だ。
 日本の生命保険会社は、どの企業も進出してまだ間もない。メジャー出資やマイナー出資、得意分野はさまざまだが、合弁企業と共にいかに生命保険の認知度を高めるか。この点では、利害が一致する日系生保の今後に注目が集まる。(佐藤拓也)

経済 の最新記事

関連記事

本日の紙面

JJC

人気連載

天皇皇后両陛下インドネシアご訪問NEW

ぶらり  インドネシアNEW

有料版PDFNEW

「探訪」

トップ インタビュー

モナスにそよぐ風

今日は心の日曜日

インドネシア人記者の目

HALO-HALOフィリピン

別刷り特集

忘れ得ぬ人々

スナン・スナン

お知らせ

JJC理事会

修郎先生の事件簿

これで納得税務相談

不思議インドネシア

おすすめ観光情報

為替経済Weekly