魚より鉄くずがもうかる てこ入れ待つ水産業
ジョコウィ政権が掲げる海洋国家。海洋水産相には空路のロブスター輸出で成功した女性実業家スシ氏が就任した。水産業の生産は毎年増加するが、底辺には伝統漁法に頼る零細漁師の分厚い層が残存する「二重構造」が課題の一つ。北ジャカルタ・プンジャリンガンには、魚より鉄くずを探すほうがもうかる、という零細漁師がいるほどだ。
うらぶれたプンジャリンガンの海岸。屈強の男たちが金属の塊を船から陸にあげた。さびだらけの塊をはかりにのせる。スクリューや機械の残骸、電気系統…。近海に沈んだ沈没船から引き上げたそうだ。「金属やケーブルを買う業者がいる。金属ならキロ3千ルピアで売れるんだ」。
男たちは海に沈んだ金属片を売って生計を立てる。本業の漁は「副業」になりつつある。海の上に、角材やトタンを組み合わせたあばら家を建てて暮らすが、もちろん「地権」はない。
漁師イスマイルさん(57)は海の底から金属を引き上げる仕事が「漁よりもうかる」と言い切った。
船は15年前に1億ルピア(約93万円)を投じて自分で造った。全長5メートル、モーターを据え付けた木製の船体は古びている。海岸から15キロ以内の近海漁が限界だそうだ。
「昔は海岸沿いにたくさん魚がいた。対岸のパンタイムティアラで素潜りして貴重な石を拾って生計を立てることもできた。だが今はジャカルタ近海は汚れている。15日間漁をして初めて魚に出会える。そういうふうだ」。
パンタイムティアラは以前は漁師村だったが、一部の海岸は埋め立てられ、いまは住宅街やアパートの開発が進む。
零細漁師の行き先はどこになるか。海洋水産省は漁業者向け燃料補助金を廃止し、他の補助金をあてることを予定する。イスマイルさんは「政府に新しいことをしてほしい。いまは『漁師を続ければ死ぬ』という状態」と吐き捨てた。
▼手こぎ船が3割近く
海洋水産省に2013年に登録された漁船61万8320台のうち26.8%がモーターなし「手こぎ」の伝統漁船だった。ボートなどにモーターを後から付けた漁船が40.8%。この二つを合わせると7割近くになる。モーターを付けた近代漁船の内訳でも5トン漁船や5―10トン漁船の小型が大半だ。
これらの統計から零細・中小の漁師が大きなパイを占めると推測できる。一部は手こぎ。ダイナマイトを利用した危険な漁にでる者もいる。
海洋水産省は2009年の1500億ルピア(13億円)から伸びを見せていない海洋部門の税外収入を、20倍規模の25兆ルピア(約2300億円)まで増やせる潜在性があるとしている。そのためには漁業の「近代化」がかぎになりそうだ。(吉田拓史、写真も)