【ジャカルタフォーカス】「生きるため」盗水 供給不備の課題残る 北ジャカルタ・高架下の住民
ジャカルタ北部では転売業者や住民が水を盗むと言われる。生活の根元を支える清潔な水が足りないからだ。水道は公共物だが行きわたらない現実がある。水は誰のものか。盗水の現場を訪ねた。
「彼らはここで水を浄化していたようだ」。トラック修理業者の男性が細長い道を指した。北ジャカルタ・プンジャリンガン、スカルノハッタ空港につながる高速道の高架下。茂みの中だ。中型トラックの荷台ほどの大きさの貯水槽が隠されていた。荒れた周囲と別物のようなきれいさ。それから10メートル先に土を掘り返した現場がある。ここから河川の水を引く水道管にパイプをくっつけ水を盗んだとして、警視庁は1日実業家ら15人を逮捕した。
高架下には廃品回収者(プムルン)集落が広がる。海岸から2キロの海抜ゼロ地帯。ごみをつめた麻袋が山積みにされ、ベニヤ板でできた掘っ立て小屋が並ぶ。穴ぼこだらけの砂利道は水たまりだらけだ。
警察によると、水を盗んだ疑いがかかるのは住民ではなく「水シンジケート」。自ら水を浄化し周辺の住宅、商業施設、オフィスに4年間売り、毎月12億ルピア(約1100万円)の収益を上げた。
住民も傍観者だったわけではなさそうだ。赤土の上にビリヤード台3台を置いて営業する男性は悔しがる。「警察が来る前は水が自由に使えたのに」。
▼水道管に穴開け、盗水
もう1カ所の盗水現場。工業地帯内に違法住居が立ち並ぶ界わいだ。州から委託を請ける民間水道会社パリジャが長さ3メートル、幅30センチの違法配水管を取り除いた。配管工の男性は「水道管に穴を開けて新しい管に溶接されていた」と話した。
製造施設も近くの高速道沿い、不法投棄された廃トラックが転がる荒れ地だ。倉庫風の建物には、押収されたろ過設備、貯水槽のほかタンクローリー3台が置かれていた。北部では「アイルブルシ(清潔な水)」を売るタンクローリーが当たり前の光景。工場などが買う場合8千リットル56万ルピア前後。個人は小分けで40リットル2千〜3千ルピア前後で割高で買う。
パリジャによれば、今年1〜5月で144カ所で不正パイプを排除。ジャカルタ北部に集中しており、特に海沿いの漁村ムアラアンケ、ムアラバル周辺で頻発する。
安価で清潔な水道にアクセスできないからだ。海岸沿いの地域は集落自体が海の上にあることも多く、低所得者は清潔な水を得るのに苦しむ。高架下のビリヤード店主は憤る。「パリジャは低所得者集落には水道を供給しない。同じ地域の金持ちには通すのに。プロフィット・オリエンティッド(利益を最重視する)なんだ」。(吉田拓史、写真も)