シーア派信者が難民化 少数派に「異端」の刻印 東ジャワ州マドゥラ島

 東ジャワ州マドゥラ島サンパン県ナンケルナン村で先月発生したイスラム・シーア派信者殺害事件で、居住地を追われた信者たちが難民化している。事件背景には女性関係のトラブルなど複雑な要因が絡んでいるが、少数派のシーア派に「異端」の刻印を押したイスラム指導者会議(MUI)の宗教見解が対立に火を注いだ疑いもある。近年、強硬派が少数派を襲撃する事件が頻発する中、穏健派ムスリムが大多数を占めるインドネシアで宗教の寛容性が改めて問われている。(上松亮介、写真も)

 「被害者なのに、ひどすぎる仕打ち」。シーア派避難民の一人、ロゴヤさん(25)が訴えた。東ジャワ州スラバヤ市から約100キロ。やせた土地を乾いた風が吹き付けるマドゥラ島サンパン県のサンパン体育館。シーア派の約60世帯280人が仕切りのない空間で肩を寄せ合っていた。青空教室や診療所はあるが、午後9時以降は外出禁止。入り口には、自動小銃を持った機動隊員が目を光らせる。
 シーア派イスラムはイランの国教で、パキスタンでシーア派虐殺事件が続発していることもあり、マドゥラ島のへき地で起きたシーア派に絡む暴力事件も国際ニュースになった。外国人が来たと知ると、私服の諜報員は片時も離れず、避難民とのやり取りの一部終始を厳重に監視する。
 物資がひしめく体育館には、ジャカルタをはじめ、各地の支援団体が詰める。国家女性委員会のヌル・イムロアトゥス調査員は「女性が口をあまり開かない点に、封建的な農村社会が見える」と分析する。県政府は、再発防止策にシーア派信者の移住を提示するが、アリアさん(50)は「畑を手放し、どうやって暮らせばいいの」と途方に暮れる。
 事件は、イスラム・スンニ派信者がシーア派の子どもたちを脅迫したことから発生。駆けつけた親に興奮したスンニ派信者が暴徒化し、シーア派信者1人を殺害、家屋約40軒に放火した。
 「事件が起きる前から、シーア派殺害計画があった」。避難民のイクリル・アル・アルミラル代表(40)は、背景には、シンコン畑の農地をめぐる農民同士の争いや、女性をめぐる宗教指導者のいがみ合いなどいくつかの要因があったと指摘する。
 今年に入り、イスラム団体を統括するMUI(イスラム指導者会議)東ジャワ州支部が、シーア派を「異端」とするファトワ(宗教見解)を出した。「これが差別を助長し、スンニ派による襲撃に至った」とシーア派団体は主張する。これまで国内各地で「異端」の刻印はアフマディアなどの宗派に向けられ、強硬派に異端を排除するための暴力を正当化する口実となってきた。
 インドネシア・イスラムに詳しい南山大学の小林寧子教授は、MUIに急進派のイスラム指導者が多いとし、「ムスリムからの求めに応じた助言であるはずのファトワが、近年政治的に出されるようになってきた」とファトワの政治利用を危惧する。
 ナザルディン・ウマル宗教副大臣は、事件の主因は女性関係のトラブルなどをめぐる家族の問題で、それに加えて宗派対立をあおった勢力がいると指摘。放火や虐殺など暴徒化するまで対立が激化したが、「地方の問題を監視するのは自治体の役割。地方主権があり、中央政府が関与することではない」と話した。

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