イでも浸透、1日390万本 5478人が営業、活躍中 経済成長に伴い増加

 日本で1935年に製造・販売を開始したヤクルト。その販売を支えてきた「ヤクルトレディー」は、高度経済成長真っ只中の日本で63年に導入された。専業主婦をしながらヤクルトレディーで家計を支える女性は、日本経済成長のいわば映し鏡でもあった。そんな日本をなぞるように、91年にインドネシアで営業を開始したヤクルト・インドネシア・プルサダ(YIP)でも、近年ヤクルトレディーが増加しており、5478人が営業している。インドネシアでも訪問販売を行い、売上を支えるヤクルトレディーの1日を追った。

 中央ジャカルタ・タムリン通り周辺地域で今年3月からヤクルトレディーを始めたプトリ・ウランダリさん(28)。数年前に離婚したため3歳の子どもと両親の4人でタナアバン駅(中央ジャカルタ)の近くに暮らしている。
 毎朝、ウランダリさんは家事を午前7時過ぎまでには終え、8時からヤクルトレディーの仕事を始める。家の冷蔵庫に保管してあったヤクルトを保冷バックに移し替え、8時から11時前まで自分の担当地区の家々を回る。毎日購入してくれる家もあれば、そうでない家もある。だが、ウランダリさんは1軒1軒声をかけて回る。
 今日初めて訪れたという家でも初老の男性と話し込んだ。家を出て独り立ちした一人娘に似ているそうで、懐かしそうに話す男性と20分ほど座り込んで会話にふける。その後、男性は5本入りのパックを2つ購入した。「購入してくれない時でも、その家に住む人の悩みを聞いたり、世間話をすることで絆を深めることができる。それが持続的な関係を築き、結果として売上の増加につながる」とウランダリさん。
 一般家庭の他にも自分の担当地区内にある幼稚園などの学校にも売り込む。インドネシアの学校には日本と違い、敷地内にワルン(屋台)がある学校も多い。敷地内での飲食にはおおらかなので売り込みに応じてくれる学校が多いという。ウランダリさんは「子どもはヤクルトが大好きだから学校の先生たちはいっぱい買ってくれるのよ」と嬉しそうに話す。 
 この日の午前中は約50軒の家を回り、約200本(約40パック)を売り上げた。午後は一度帰宅して12時過ぎまで休憩。1時の昼礼に間に合うようタナアバンにあるヤクルトセンターに出社する。センターでは、その日の午前と前日の午後の売上を専用のファイルに書き込む。その後、その日の担当レディーがセールストークの確認をロール・プレイング(役割演習)を通して上司と行う。ウランダリさんら他のレディーはロールプレイを見たあと、良・可・不可でロールプレイの成績をつけて振り返りを行う。毎日のロールプレイがセールストークの質を向上させる秘策だ。
 レディー間で身だしなみのチェックを行い、「ヤクルト、ガンバロー」のかけ声と共にセンターを出発するレディー達。ウランダリさんは約400本(80パック)を保冷バックに入れ、1時過ぎから会社を回って売り込む。午前中の民家とは違い、気軽に話しかけることが出来ないオフィスでも入り口近くで待ち、出てくる人に声をかける。数ヶ月通ったオフィスビルでは顔なじみも多く、ウランダリさんの顔を見るとわざわざ購入しに来る人も多い。午後は約150本(約30パック)を売り、4時過ぎに帰路についた。
 ウランダリさんは、以前は露天で物売りなどをして生計を立ててきた。だが、スカウトされヤクルトレディーを始めたウランダリさん。以前の月収はジャカルタの最低賃金を下回る130万ルピア程度。ヤクルトレディーになってからの月収は250〜300万ルピアにあがった。体が元気なうちはヤクルトレディーとして働きたいと話した。

■収入を長年貯金し巡礼も 大ベテランは語る

 シティ・ソリハさん(49)は、1日に550本(110パック)以上売り上げるという、ヤクルトレディー歴15年の大ベテラン。子どもが3人いるが、ヤクルトレディーの収入で大学に行かせることができたという。
 今年には家も購入することが出来た。ムスリムが果たすべき行いのうちの一つ、メッカ巡礼も政府主催のツアーに申し込み済みだという。「高額なツアー代金もヤクルトレディーの収入を長年貯金してきたため支払えた」と笑顔で語るシティさん。ツアーには先客が多数いるため、いつ行けるかまだ定かではないが、「人生にさまざまな機会をもたらしてくれたヤクルトレディーの仕事に誇りを持っていると」話す。今日も自転車にまたがりジャカルタの喧噪のなかへこぎ出していった。(藤本迅、写真も)

◇ヤクルト・インドネシア・プルサダ

 ヤクルト・インドネシア・プルサダ(YIP)は1991年に営業を開始。YIPの2013年の累計販売実績は前年比115.9%の11億5千万本(1日平均317万5千本)。
 今年4月には国内第2の工場、スラバヤ工場も稼働。スカブミの第1工場を含めた1日の生産数は390万本を超す。第2工場の稼働により、配達に日数がかかった国内の東部にも新鮮なヤクルトを届けることができるようになった。
 97年以降のアジア通貨危機などで業績が落ちることがあったが、上野早苗社長を先頭に国内市場の開拓を続けてきた。現在49支店のもと、523区に分けられた販売網を使い全国にヤクルトを届けている。

◇ヤクルトレディー

 YIPは、2007年頃からヤクルトレディーの販売を強化。今では総売上の約半分をヤクルトレディーが稼ぐ。現在のヤクルトレディーは全国で5478人(7月末現在)。
 ヤクルトレディーは求人を募る形でなく、スカウト制を採用している。売上が見込めそうな地区を営業本部が試験的販売を行う。その上で、その地区に住む主婦などを中心に直接スカウト採用を行っている。採用するのは23〜38歳で、子持ちの場合は子どもが3歳以上が条件だという。インドネシアでは、妻を働きに出すことに積極的でない慣習が残っているため、採用時には夫や家族から就業許可証にサインしてもらうことを義務づけている。今でも家族の反対が離職の一番の原因。時には、YIPの日本人社員が直接説得することもあるという。
 平均月収は280万ルピア。地方はもとより、ジャカルタでも平均賃金を超す月収はインドネシア女性にとって魅力的な働き口だ。

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