【火焔樹】 四季と心の土壌

 インドネシアに長く居ると日本の四季の素晴らしさを実感する。四季は人の五感を刺激し、心の土壌を豊かに育む源でもある。インドネシアには四季がないため、どうしても日々の変化が乏しく、一本調子な生活になりがちで、物の見方までが単調になるようで日本への望郷の念がより一層増してくる。
 しかし、よく目を凝らして見てみると、単調になりがちな南国の暮らしの中でも、日本の四季に相当する自然の素晴らしさは存在することに気が付いた。太陽が昇るころからの朝方の気温は驚くほど低く秋の肌寒い日を連想させる。都心から少し離れ高地に行けば、その感覚は日本の三月から桜の花の咲くころの朝方と変わらない。乾期の灼熱の太陽が照りつけるころの強烈な陽の光は日本の夏とは違う様相を醸し出す。雨期には台風が三つ同時にやってきたような雨が集中的に降る。冬こそないが、広大な国土を持つインドネシアには、雪が降る山の山頂もあり、セーターやジャンパーを着ないと寒いと感じる地域も存在する。
 時間をかけて徐々に季節が変化をしていく日本と違って、インドネシアの人々は、一日の中で日本の四季を思わせるような現象を知らず知らずのうちに体験しているのである。心の土壌が四季の様々な現象によって培われるのなら、日本人の物事を粘り強く対応しようとする姿勢は、緩やかでも必ず変わっていくそんな季節の法則がそうさせているのかもしれない。
 一方、すべてを取り入れて一緒くたにしてしまいがちなインドネシアの人の行動様式は、実は、一日の自然現象がめまぐるしく変化することに無意識に対応しようとする人々の知恵なのかもしれない。一つのことに没頭するがあまり、大局が見えなくなりがちな日本人は見習わなければいけないかもしれない。逆に、すべてをチャンプル(混同)させてしまいがちなインドネシア人は、素晴らしい自然現象に敏感になり、そこから多くのことを学んでほしい。(会社役員・芦田洸)

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