英アカデミー賞を受賞 9.30事件描写「アクト・オブ・キリング」 監督「米英に連帯責任」 ドキュメンタリー部門
1965年以降、国内で起きた共産党支持者粛清を描いた映画「アクト・オブ・キリング」(2012年8月公開)が16日、英国アカデミー賞(バフタ賞)のドキュメンタリー映画賞を受賞した。
同作品は、虐殺の加害者の証言に焦点を当て虐殺場面を再現。インドネシア現代史の闇に葬られた事件の真相を探った意欲作。実際に虐殺に関わった自警団「プムダ・パンチャシラ」の構成員が出演して話題になった。
16日、ロンドンで開かれた授与式で、米国出身のジョシュア・オッペンハイマー監督は「インドネシアが過去をどう振り返るか考える上で一助になる」とあいさつ。60年代当時、インドネシアの共産化阻止を図った米国が虐殺を支援したことを踏まえ「虐殺に関わり、無視した米国や英国にも連帯責任がある」と訴えた。
制作にはインドネシアのスタッフ約60人が参加。共同監督を務めたインドネシア人については、身の安全を守るためとして身元を明らかにしていない。
本作は米国アカデミー賞(授賞式は3月2日)の長編ドキュメンタリー賞候補5作品の一つにも選ばれている。昨年、山形国際ドキュメンタリー映画祭では2位に当たる山形市長賞を受賞した。海外で注目される一方、国内では人権団体の催しなど限られた機会でしか公開されておらず、匿名の人物から脅迫を受けた上映会もあった。
インドネシアでは、65年に起きた共産党系将校のクーデター未遂「9.30事件」を機に、容共路線のスカルノ大統領が失脚。当時、陸軍将校だったスハルト大統領が実権を握り、共産党支持者とされた50万〜200万人が虐殺された。
虐殺を問題視する世論は生まれず、共産主義のタブー視はいまも根強い。国家人権委員会は2012年、国軍などによる組織的な人権侵害があったとする調査結果を発表、捜査を求めたが、最高検は「証拠不十分」として却下した。(上松亮介)