【スラバヤ動物園の真相】(中) はびこる縁故主義 報告書が書けない職員も
スラバヤ市民は動物の不審死が相次いでいることに「問題は飼育員」と口をそろえる。ラトナ園長も「飼育員の教育レベルはとても低い」と認める。園内の職員は獣医や清掃員なども含め8日時点で185人。園長は「数は十分」。問題は資質だ。
■無計画、無試験の採用
スラバヤのアイルランガ大学の調査報告書や動物園の関係者の話を総合すると、動物に暴力的な職員や仕事をさぼる職員もおり、採用後のトレーニングも十分に行われてこなかったという。読み書きが満足にできない飼育員もいて、飼育の勉強ができないし、担当する動物の健康状態について報告書も書けないため、動物の病状は悪くなるばかり。飼育員が、知人を無料で入場させることは頻繁にあったという。
インドネシアにはびこる縁故採用が原因である。知人や親類の紹介で採用していたために計画性がなく年齢層がばらばら、採用試験もなかった。動物に対する愛情は飼育員の最低の条件だが、全く考慮されていなかった。能力ややる気を無視して縁故で採用し続ければどうなるのか、動物園は縁故社会の縮図である。
■市の経営改善努力
ラトナ園長は今年から飼育員に15カ月の研修期間を設け、動物園の運営や動物の知識を学ぶため、福岡県や台湾、香港に職員を派遣した。昨年7月、市が経営に関与してから採用試験も導入し、2月までに獣医や清掃員計24人を採用した。
問題は若手の指導だ。経験豊富な職員と若手で2人のチームをつくり動物の飼育にあたる制度を始めたが、職員の多くが20代と50〜60歳に集中し、中間の30〜40歳代がいない。しかも、2014年に27人が定年を迎えるため「指導する人が不足する」と園長は頭を抱える。
市は警備員も増やした。動物の死因として、食事が与えられず痩せていたことに関心が集まっているが、ラトナ園長によると客が与える食べ物による肥満が原因の病気が多かったという。警備員はえさを与える客に注意することが主な仕事。しかし、客が落花生を猿に投げ与える横で、警備員は地面に座り込んでいつまでも談笑していた。
■4派閥がいがみ合い
問題を複雑かつ深刻にしたのは、飼育員の間の派閥である。度重なる経営者の交代が派閥を生む原因になったようだ。園内で20年間飲み物を販売する女性は「派閥が理由で、ここ10年ほどで園内の雰囲気が急速に悪くなった」と話す。
現在4グループに分かれており、異なる派閥は協力して仕事することはなく、いがみ合って抗争に熱中し、動物にエサを与えないこともあるという。販売員の女性によると特に2000年以降は特に争いが激しく、実際に死亡率は急激に増加し、07年には一年間で528匹が死んだ。
経営者が何度も交代したのはインドネシア恒例の「金」が絡んでいる。動物園はスラバヤの目抜き通り、ダルモ通りに隣接する一等地にあるから、土地を巡る争いが底流に存在する。(高橋佳久、写真も)=つづく
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