【林哲久の為替・経済ウィークリー】 通貨安影響は限定的 ルピアの底入れは先
新興国通貨の下落が世界中に伝播したことで、トルコ、インド、南アフリカの中央銀行は、通貨防衛のために、金融引き締めに動いた。急激な利上げは通貨安に一定の歯止めをかける一方、景気への悪影響を懸念して、新興国株式市場は大幅安となった。米国の量的緩和解除が遠因となっているが、新興国市場の混乱は米国債券市場への資金流入を促し、米国の資産買い入れ金額の減額にもかかわらず、米ドル長期金利は低下傾向に入っている。
こうした状況下でも、インドネシア金融市場が比較的平穏なのは、ルピア相場の大幅調整はすでに昨年8月に起こっており、その後の金融引き締めにより、経常収支の悪化に歯止めがかかる傾向にあることから、今回の連鎖安の影響は限定的なものにとどまった。また、インドネシアの製造業においては、国内の設備稼働率の拡大によって生産の拡大分を輸出に振り向ける割合が増加する企業も出てきており、今後の貿易収支への好影響が期待される。
ただその一方で、今年は大統領選挙の年に当たり、選挙運動の活発化が内需を押し上げるとの見方が強く、また、選挙が終わるまでは外国直接投資が見送られるとの見方もあり、国際収支の改善は容易なことではない。実際、足元の洪水の影響などでインフレ率が高止まる中、インドネシアの消費者信頼感指数は高水準を維持しており、国内の消費マインドの鈍化は見られていない。
先週発表された12月貿易収支は市場予想を上回る15億ドルの黒字となったが、これは未加工鉱物資源の輸出禁止措置がとられる前の駆け込み輸出増による部分が多く、市場の反応は鈍い。むしろ今年に入ってからの輸出の反動減が懸念されるとともに、肝心の米国のISM製造業指数が大幅に悪化するなど、新興国の通貨安懸念が好調な米国経済にも影を落とすとなるとインドネシアの経常収支の改善は一層難しくなる。まだまだ、ルピア相場の底入れが近いと言える状況ではない。(三菱東京UFJ銀行ジャカルタ支店副支店長)