ロールスロイスに便宜か スハルト三男トミー氏に疑惑 ガルーダ航空エンジン購入
故スハルト元大統領の三男フトモ・マンダラ・プトラ氏(通称トミー)が1990年、国営ガルーダ・インドネシア航空にエンジン販売の便宜供与の見返りに、英ロールス・ロイスから2千万ドルを受け取った疑いが浮上している。
英紙デイリー・テレグラフによると、世界第2位の航空エンジンメーカー、ロールス・ロイスの元インドネシア駐在員ディック・テイラー氏が2006年以来、インターネット投稿で内部告発を開始。同社民間航空部門の幹部がインドネシアや中国などで不正を働いたと暴露し、英国司法省所属の汚職捜査機関、重大不正捜査局(SFO)が捜査に乗り出していた。
告発によると、トミー氏は90年、ロールス・ロイスがガルーダ航空へエアバスA330用ジェットエンジン・トレント700を売るための便宜を図る見返りとして、同社から2千万ドルと新車一台を受け取ったという。SFOとロールス・ロイスはコメントを控えている。
テイラー氏は約30年間、同社に勤続したが、インドネシア駐在中に関知した上司の不正を本社に報告したことがきっかけで、02年、早期退職を命じられたと主張している。
これに対し、トミー氏は25日、顧問弁護士のエルザ・シャリエフ氏を通して、SFOのデービッド・グリーン局長に書簡を送付。「告発元はネット上のコメントに過ぎず、公式の情報源ではない」と関与を否定している。
トミー氏はスハルト独裁政権時代、父の最愛の末息子として優遇措置を受け、国産車「ティモール」などを国家事業として展開、一族のファミリービジネスと批判された。同政権崩壊後、資産売却に絡む民事訴追されたほか、名誉毀損や汚職で刑事訴追されたが、その多くの訴訟で勝訴している。
土地収用に絡む汚職事件の上告審で有罪を下した最高裁判事の暗殺を教唆。禁錮15年を受け、スハルト一族で唯一の受刑者となったが、恩赦を受け、わずか4年3カ月で仮出所した。
今も国内外に多くの資産を所有する。インドネシア最高検は4670万ドルの不正蓄財が保管されたフランスの銀行大手BNPパリバの口座凍結を試みたが、英地裁で09年に敗訴し、蓄財の国庫返却は実現していない。
昨年には、トミー氏所有の船舶会社が大手海運会社数社に負うリース料1億4500万ルピアの支払いをロンドン高裁に命じられたが、履行しなかった。
世銀と国連麻薬犯罪事務所(UNODC)は07年、スハルト氏の不正蓄財推定額を150億〜350億ドル(1兆5千億〜3兆5千億円)と発表。発展途上国の指導者が横領した資産で最多とした。スハルト氏は失脚後、不正蓄財疑惑で訴追されたが、病気を理由に裁判は中止された。08年1月に死去するまで疑惑は追及されなかった。(宮平麻里子)