【ポスト・ユドヨノ時代を読む】(1)大きな政治的転換点に 2014年選挙が持つ意味
ユドヨノ政権の任期が1年を切り、来年の総選挙(4月投票)、大統領選挙(同7月)に向け、政治の動きが活発になっている。三選が禁じられているため、来年10月で2期10年の任期が満了となるユドヨノ大統領の後釜には誰が納まり、インドネシアはどこへ向かうのか。今年7月にジャカルタ入りし、インドネシア政治の研究者として、現場を飛び回り選挙戦を観察している立命館大学国際関係学部の本名純教授に来年10月までの1年間、選挙を通じたインドネシア政治の行方を分析してもらう。
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今からちょうど10年前、じゃかるた新聞に選挙の連載記事を書いてみないかというお誘いを受け、2004年選挙の分析を紹介したことがある。10年などあっという間だなあ、というなんとも切ない(?)思いとともに、新たな連載をスタートすることになった。よろしくお付き合い頂ければ幸いである。
■政治的安定は未知数
来年の選挙は何を意味するか。まずこのことから考えてみたい。日本と同様、長期政権が続くと、私たちは「政治の安定」を当たり前に感じ、空気のように存在を問わなくなりがちである。04年に誕生したユドヨノ政権の過去9年間の安泰はまさにその感覚を多くの国民にもたらしている。政治が不安定になり、経済や治安に悪影響が出て、国際社会がこの国の行方を心配する。そういう状況は、なかなか今の日常からはイメージしにくくなっている。その意味でユドヨノ時代の功績は大きい。
では「ユドヨノ後」も政治の安定は保証されるのか。答えはノーである。来年の選挙の結果次第で、政治は大きく揺れる。まず大統領が替われば政権のリーダーシップも変わる。与党が替われば目指す政治の方向も変わる。ユドヨノ時代に冷や飯を食っていた人たちが一斉に活気づけば、これまでと違った力学が政治に介入し始める。こういう変化の末に、政治が安定するかどうかはまったく未知数である。だからこそ、来年の総選挙と大統領選挙は、10年ぶりにインドネシアに大きな政治的転換をもたらす契機として、とても重要な意味を持っている。
■国際秩序にも影響
同時に、来年の選挙はインドネシアのみならず、東南アジアや東アジアといった地域の国際秩序にも重要な意味を持っている。ユドヨノ大統領の長期安定政権は、インドネシアの外交的な立場を大いに強め、ASEAN(東南アジア諸国連合)の盟主としての役割をアジア地域で発揮する基盤を作ってきた。
中国の政治的・軍事的・経済的影響力が東南アジアの地域秩序を変えつつある中、日本や欧米は対ASEAN外交の重要性を再認識している。とりわけ「ASEANの一体性」を最も重視するインドネシアの外交的リーダーシップに期待してきた。ユドヨノ後の新政権はASEANにどのような影響力を持つのか。来年の選挙は、その外交的転機として、地域秩序の行方を考える上でも大事な意味を持っている。
いずれにせよ民主選挙の主役は有権者である。彼らがどのような期待を込めて投票するかで新大統領が決まり、国会の新勢力図が決まる。では有権者は何を求めているのか。ユドヨノ後のインドネシアを舵取りするのはどういう人たちなのか。選挙戦の中から、その答えが見えてくる。この連載を通じて、インドネシアの選挙ドラマとユドヨノ後の展望について皆さんと一緒に追っていきたい。(月1回のペースで随時掲載予定)
◇本名純(ほんな・じゅん)
1967年東京生まれ。米テンプル大学卒業後、国際基督教大学で修士、オーストラリア国立大学で博士号。立命館大学国際関係学部教授。専門はインドネシア政治・東南アジア地域研究・比較政治学。10月に「民主化のパラドックス―インドネシアにみるアジア政治の深層」(岩波書店)を上梓。