カディンが内部分裂 反対勢力が「暫定会頭」選出
財界のまとめ役として、政界にも影響を行使してきたインドネシア商工会議所(カディン)で内部紛争が噴出した。スルヨ・バンバン・スリスト会頭が地方を軽視しているとして、反対勢力は先月28日、バリで会合を開き、リザル・ラムリ元経済担当調整相を「暫定会頭」に選出。来年に迫った大統領選に向けた政治的な思惑も絡み、現執行部に揺さぶりをかける狙いだ。
地元メディアによると、仕掛け人となっているのは、元国民協議会(MPR)副議長のウスマン・サプタ・オダン氏。カディンの諮問委員会委員長を務めていたが、地方の役割拡大を求め、非公式な「全国代表者会議」を開き、現執行部の無効を宣言するなどして、9人の地方商工会議所会頭とともに今年4月に除名されていた。
28日の会合では、地方支部や産業団体など23の代表を集め、10月末に予定されている全国代表者会議までの期間、ラムリ氏を暫定会頭とするほか、スティアワン・ジョディー氏を顧問会議議長、ウスマン氏を諮問委員会議長とすることなどを決議した。
ウスマン氏は、カディンが経済発展に果たす役割が低下していると危惧。「特に地方ではカディンはすでに死んだも同然で、再興のために立ち上がった」と訴えた。
これに対し、スルヨ会頭は「喜劇のようなもの」と一蹴。「カディンは法令でも定められた政府のパートナー。カディンを名乗る別の勢力に惑わされないでほしい」と呼び掛けた。
カディン関係者は「地方代表の3分の2はスルヨ会頭を支持している。7、8州のトップがウスマン氏を支持しているが、それも組織として正規の手続きを踏んだ決定ではない」と述べ、反対勢力に正当性がないことを強調した。
■政治化進み求心力低下
カディンでは、会頭だったアブリザル・バクリー氏(1994〜2004年)、ヒダヤット氏(04〜09年)が2代続けて大臣となるなど、政界への「登竜門」となってきた。10年からのスルヨ体制は、ゴルカル党党首として大統領の座を目指すバクリー氏の集票マシーンと揶揄(やゆ)され、政治化を嫌うそれまでの幹部の一部は、活動の軸足をカディンから経営者協会(アピンド)に移していた。
現執行部の期限は15年までだが、今年1月には役員を大幅に増員。求心力の低下を受け、体制強化を図ったとみられている。
ウスマン氏を中心とした一連の動きについて、10年6月〜12年3月にジェトロ専門家としてカディン特別アドバイザーを務めた松井和久氏(現JACシニア・アソシエイト)は「10年の会頭選の際、ウスマン氏は、スルヨ氏が当選後、地方にもっとお金を落とすことを条件に、立候補せずにスルヨ氏を支持したが、その条件が守られなかったため、『クーデター』を起こした」と指摘する。
ウスマン氏はユドヨノ大統領と近いと言われており、「政治の季節を迎え、おとなしくしているとつぶされてしまうので、存在意義を誇示するためにやっている部分もある」として、来年の大統領選で自分の立場を引き上げるための示威行為との見方を示した。(上野太郎)