【ジャカルタ・フォーカス】 自警団、地権紛争が夢阻む 貯水池の歌劇場開発

 東ジャカルタのリアリオ貯水池改修公共事業が袋小路に迷い込んだ。住民の反発、地権をめぐる紛争、自警団の参入が事態を複雑化している。ジョコウィ知事が夢見る、湖畔の「歌劇場」計画はとん挫の危機に直面した。
 「貯水池周辺に住む500世帯(後に400に訂正)を近隣の公営住宅(団地)に移転する」―。そう通告する書類が住民に送付されたのは今年5月。その2カ月前、火災で百戸以上が焼けた。
 出火原因は明らかではないが、住民の間では「放火説」が定説だ。火災の傷跡は生々しい。焼け残った家屋の残骸を、ビニールシートやベニヤ板で覆っただけの住居が並ぶ。地方から流入し露天商、ごみ回収などで生計を立てる住民は当然、地権、建設権を持たない。それでも電気水道のある「インフォーマル住宅」で暮らしてきた。
 州政府は9月撤去にこだわった。ジョコウィ知事が住民を移転先の団地に案内し、立ち退き者全員の移転を約束。人気の知事の発言と州庁舎発の情報で組み立てられた報道があふれ、立ち退きは既定路線化した。
 だが、州政府が用意できた団地は70戸。不足しているにもかかわらず、立ち退き期限を9月初旬に据え置いたため、住民感情が悪化した。
 先月末から住民側に自警団「フォールム・ブタウィ・ルンプッグ(FBR)」が加わり、徹底抗戦の構えに変わった。FBRは構成員数十人を常に動員、村落入り口の詰め所に有刺鉄線を巻き付け「臨戦態勢」を見せつけた。これが話題になり、アブドゥル・ガフルル町内会長は次々にテレビ局の取材を受け、補償を伴う立ち退きを州に要求した。その生中継を見ながら、第7隣組の副組長マムットさんは「メディアはずっと市民の声を拾ってこなかったが、やっとわれわれに有利な報道が出た」と喜んだ。
 FBRは住民の「既得権」を主張している。「この土地は住民のものだ。住民は世帯登録し、電気水道料金を払い、土地建物税を払ってきた」。地権を持たない村落の数千人の権利をFBRが「代弁」する格好だ。「土地はFBRが面倒を見ている」と構成員の男性はいう。武闘派として知られる自警団のFBRが、国家機関の国家人権委員会に住民への人権侵害を通報するという奇妙な出来事も起きた。
 このFBRが居座った土地に、地権問題が追い打ちをかけた。土地は州関連企業プロマスが保有するとされたが、そのうち2ヘクタールの地権をスハルト時代の副大統領アダム・マリック氏が設立した財団が主張。しかもプロマス保有とされた事業予定地には、地権者が多数いる区域があるという。FBRの広報は「土地収用は事実上無理だ」と話す。州は10月に撤去期限を延長したが、期限を守れるかは不透明だ。
 この事業はジョコウィ知事の夢を託していた。だが、それは絵に描いた餅になるかもしれない。貯水池改修はそもそも1月の首都大洪水を契機とした治水事業だが、貯水池周辺26ヘクタールの複合開発に発展した。その中心が池を臨むオペラハウス。ローマの街並みを愛した故スカルノ初代大統領の忘れ形見の計画。闘争民主党からの大統領選出馬をにらむとみられる知事が、同党の父祖の遺志を継ぐという形だ。
 計画に州が割り当てを予定しているのは、今年も含め1兆ルピア(約90億円)。2013年州予算52兆ルピアの2%近い。プルイット貯水池の非公式住宅強制撤去、タナアバン露天商強制撤去と、地方から流入した低所得者層に厳しい施策が続いている。(吉田拓史、写真も)

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