「研究成果の発信不可欠」 東日本大震災の反省生かす 東北大・今村教授
多くの死傷者を出した東日本大震災の経験をインドネシアの津波対策にどう生かせるのか。
日本の津波被害予測の第一人者で「インドネシアにおける地震火山の総合防災策」プロジェクトでも津波の被害予測やハザードマップ作りに携わる東北大学の今村文彦教授は、今回の震災に対する防災対策の反省点について「研究者の中で、東北沖で巨大津波が起こることの可能性が指摘されていたが、その研究成果を生かすことができなかった」と語る。
今村教授は、津波の研究者の間では今回の東日本大震災のような規模の巨大な津波が発生する可能性があることはある程度予想されており、これまでの政府の防災対策を話し合う会議でも問題定義がされていたと説明する。
今村教授らの東北大と産業技術総合研究所(産総研)の津波研究グループは、今から約十年前に仙台平野での地質調査に着手し、西暦八六九年(貞観一一年)に貞観地震に伴う巨大津波が海岸から内陸約四キロから五キロまで押し寄せていた形跡を確認。貞観津波研究の成果や巨大津波の危険性を防災の学識経験者や各省庁の代表者が集まる内閣府中央防災会議や文部科学省の地震調査研究推進本部の定例会で二〇〇五年ごろから度々指摘しており、貞観津波が内陸深くまで及んでいたことは津波の研究者の間では一般的になっていたという。
しかし、対策を行う切迫性が欠けていることや、貞観津波の規模の正確性が不十分であることから中央防災会議の想定地震・津波には貞観津波は考慮されなかったという。
今村教授は「貞観津波のような巨大津波の発生を想定すると、その対策に莫大な予算が必要なことも背景にある」と説明。行政を動かすのは難しいため「研究者が自ら沿岸部の自治体などに赴き、巨大津波の危険性をもっと社会に発信しておくことが必要だった」と悔いている。
後の巨大津波の備えとしては、予算の関係上防潮堤などですべての住宅や施設を守ることは現実的ではないことから、学校や病院、地方自治体の庁舎など特定の施設のみに対して高い基準を設定し、地震が発生した際にはすぐに高台などの避難所に逃げることを徹底することが重要と指摘する。
「今回のような巨大な津波に対しては、防潮堤などのハード面だけでは防ぐのは難しい。巨大な津波に関しては、速やかに逃げることが欠かせない」と強調。「巨大津波に関していえば、日本も、ハード面の対策が日本以上に取りにくいインドネシアも同じで、高台に逃げることが最も重要」と語る。
今村教授は「行政への働き掛けを含め、社会への情報発信により力を入れていきたい。研究者の調査で、危険性が示されても、社会に発信して防災に生かされなければ無駄になってしまう。このプロジェクトでは、行政との連携や防災教育も研究のテーマとして掲げられているので、プロジェクトを通じて研究の成果を積極的に社会に発信していこうと考えている」と意気込みを語った。