「中間層は安定望む」 拓大の渡辺総長 地域の大国へ発展期待

 開発経済学やアジア経済論の権威として知られる拓殖大学の渡辺利夫総長(兼学長)はこのほど、ジャカルタを訪問し、じゃかるた新聞の会見に応じた。近年のインドネシア経済の発展について、「中間層が厚みを持てば、社会の安定度は増す」と述べ、今後、インドネシアが地域の大国としてさらなる成長を遂げることに期待を示した。(上野太郎)

 渡辺総長は、理事長を務める山梨総合研究所のインドネシア視察に合わせてジャカルタを訪問。4、5年ぶりとなった街の印象について、「ずいぶん明るくなった。こんなに変わってびっくりした」と話す。
 その背景として、「中間層が相当の厚みを持って生まれてきたのでは」と指摘する。「スハルト時代も成長率は高かったが、イメージとしては『貧困のアジア』を代表する国の一つで、中間層の厚みは実感できなかった。あくまでも直感的な感想だが、今回は違うのではないか」
 その厚みを持った中間層の存在が国家に安定をもたらすという。「中間層は、所得が上昇してくると自由や民主を求めるようになる。同時に失っては困るものも持ち始めた階層。変革は好むがラディカルな変革は望まない、という心理を持った人たちだ」と分析した。
■「フィンランド化」懸念
 東南アジア諸国連合(ASEAN)では、中国の勃興を例に挙げ、相手に逆らえなくなったら相手の意に沿って行動するという「フィンランド化」の懸念が出ていると指摘する。「今年のカンボジアでのASEANサミットで共同声明が出せなかったのが最たる例」という。
 著書などを通じ、中国をはじめとする大陸国家と距離を置くべきと主張してきた渡辺総長は「ヒトラーにつながったドイツの勃興のようなことが今、アジアでも起こっているのではないか。経済成長と軍事費増大を続ける中国の勃興が、アジアの勢力均衡図を塗り替えていくとば口にあると思わせる。南北の連携軸を強化すべき。そのためには日本がしっかりしなければならない」との見解を表明。一方で、「ドイツも日本もアメリカも過去にそのようなことをやってきた。『中国は対外膨張の欲求に身を焼かれているのだ』と認識した上でどう対処するかを考えないと中国の行動様式を読み違える」と述べ、「『渡辺は反中だ、嫌中だ』とよく言われるが、大学では無数の中国人留学生を育てている。個人と国家や民族はまったく別だということで、その意味で僕は親中派であり、反中派」と話した。
■インドネシアと縁深い
 1960年代の戦後賠償留学生に対し、日本語や日本事情を教える役割を果たした拓大は現在、インドネシアの元日本留学生たちが創設したダルマ・プルサダ大学と提携し、学生の派遣や弁論大会などを行っている。渡辺総長は今回、同大のオロアン・シアハアン学長とも会談。「日イの象徴的な存在である大学。拓大も(インドネシアの若者に軍事教練を行うなどして、後の独立を支援する役割を果たしたことで知られる)柳川宗成大尉が卒業生であるなど、インドネシアと縁が深い。知恵と人材を供給するなどして、さらに関係を深めていきたい」と意気込んだ。

◇渡辺利夫(わたなべ・としお)
 1939年6月生まれ。山梨県甲府市出身。慶応大学大学院経済学研究科博士課程修了。専門は開発経済学と現代アジア経済論。筑波大、東工大教授を経て、2000年から拓大教授。同大国際開発学部(現・国際学部)長を務め、05年に学長、11年に総長(学長兼任)就任。日本安全保障・危機管理学会会長も務める。

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