【下請けサバイバル】(5)進出編 欠かせぬ肌感覚

 インドネシア経済への地元経営者の認識が「上り坂」から「踊り場」に変化する中、経験豊富なベテラン日本人経営者に課題と解決方針を語ってもらう座談会の5回目。最終回は進出する際に留意すべき点などを挙げてもらった。(赤井俊文)

 A「いよいよ最後になったけど、そもそも今進出する時にどうやって情報を得ているんだろう」
 B「最近地方に進出した企業から話を聞いたけど、東京のインドネシア投資調整庁(BKPM)事務所はジャカルタの情報は持ってるけど、それ以外は持ってなくて全体的に古いみたい。出先機関は持ってるのに連携してないのかね」
 D「政府機関で必要としてる情報が得られない場合は、やっぱり銀行だろうな。進出が専門のコンサルティング会社を紹介してもらうとか」
 C「銀行はあくまで大枠しか知らないからね」
 A「コンサルティング会社がKITAS(暫定滞在許可証)の取り方とか実務上の細かいところを抑えているのは確かだとしても、あまり多くを期待してはいけない」
 A「実務一般は知っていても、クライアントの状況に応じたコンサルティングをやってくれるところなんて普通はないから、どういう形で事業を進めていくかの全体像は、コンサルティング会社に行っても分からないと思っておいた方が無難」
 B「輸出入の法律とかいろいろ自分で調べないといけない場合もあるからな。ローカル企業と組まない場合、やっぱり調査に最低1年半はかけた方がいいんじゃないか」
 C「現場で肌で感じていかないと、やっぱり分からないしね」

■物流コストが高い

 B「あとは交通インフラか。道が悪いから物流コストはものすごく高い。渋滞もすごいし」
 A「製造業の全コストのうち、17%を占めるのは普通。日本は2〜3%だからえらい違いだ」
 D「あと、進出って一言で言っても、製造する商品なり事業なりがインドネシア国内で消費されるかどうかで全然違う」
 A「最近進出したユニクロの服とか自動車みたいに、インドネシアの人々が消費する商品なら、仮に最低賃金が上がっても製品価格に上乗せすればそれで補てんはできる」
 B「あくまでインドネシアを製造拠点として第三国に輸出する場合は、最低賃金が上がっても売り先の国がインフレになっているわけじゃないから、価格転嫁はできない。競争力が落ちるからね。部品メーカーにとっては値上げの要求が通らない相手が取引先の大企業以外にも増えるわけだ」

■地方進出の検討も

 A「北スマトラ州の最低賃金は月160万ルピアで、ジャカルタの240万ルピアの3分の2だから、高い技術レベルが要求されない工程をメーンにする場合はこういう賃金の差が大きい」
 C「まだまだ地方への進出熱は高くないけど、今後はどうなるのかね。電力とかインフラの問題があるしね。ミャンマーとかカンボジアよりはましと言ってもなかなか飛び込めないよな」
 A「そう考えるとこれからジャカルタに進出する企業は、食品関係なんかの内需主導型になるだろうね」
 B「最終的には進出しようと考えてる経営者がどういうふうに今のインドネシアを見るかってことだと思うけど、大筋はそうじゃないか」

■その国の人に敬意を

 A「話は尽きないけど、そろそろ締めに入ろうか。やっぱり長年インドネシアにいる身としては、自分でしっかり調べるとか人任せにしないことは強調したい。最終的に誰も頼りにできないんだから」
 C「あとは何よりインドネシア人に敬意を払うことだよね。『よその国で商売をさせていただいている』という気持ち。これがないと長く事業を続けて成果を出すのは無理。それにしても、今回は『いい人』みたいな発言が多いのがなんとなく恥ずかしいけど」
 B「いや、Cさんの言うことは正しい。そうでないと地元メディアはおろか、じゃかるた新聞にまで『日本企業は即刻撤退すべし』みたいに書かれる状況になるかも(笑)」
 A「今回は言いたい放題言わせてもらったけど、一緒にインドネシアで経営する者同士、来ていただければ最大限協力したい」
 B「少なくとも一緒に飲んで、相談に乗るくらいはできるしね」 (おわり)

◇座談会のメンバー

A 電子機器メーカー社長、70代(東ジャカルタ)
B 自動車部品メーカー製造担当取締役、60代(ブカシ)
C プラント向け工業部材の合弁企業社長、60代(東ジャカルタ)
D 容器包装類メーカー社長、60代(ブカシ)

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