【揺れる民主化・1部社会】(6)学生 改革の精神を受け継ぐ 

 旧民主党襲撃、活動家拉致、トリサクティ大学生射殺、2回にわたるスマンギ立体交差前の衝突―。スハルト政権末期、独裁者を頂点とする事実上の軍事政権に抗議の声を上げ、最前線で犠牲になったのは学生たちだ。拉致されて以来、現在まで行方不明のままの学生もいる。
 同政権崩壊15年を迎えた今月、先輩たちが率いたレフォルマシ(改革)運動を振り返る学生がいた。インドネシア大学(UI)学生行動戦線(FAM)のアブラハム・ベディクトさん(19)。仲間たちと十数人で繰り出したデモで「インドネシアは人権侵害や汚職が横行している。今こそレフォルマシが必要だ」と訴えた。
 UIの先輩ムザンミル・ジョコさんは、98年11月13日のスマンギ事件で射殺された。同日夕、治安部隊は首都目抜き通りのスディルマン通りに集結した学生たちに発砲。学生8人ら計17人が死亡し、6歳児を含む456人が重軽傷を負った。「スハルトの傀儡(かいらい)」と批判を浴びたハビビ政権下で起きた最初の大規模な衝突事件だった。
 99年9月24日の2回目のスマンギ事件では、治安維持法改正に抗議する学生が治安部隊と衝突。デモに参加したUIの華人学生ヤップ・ユン・ハップさんが撃たれて死亡した。
 「事件を風化させてはならない」。アブラハムさんは先輩たちの写真を貼った垂れ幕を手にデモ行進した。銃弾に倒れた先輩は「レフォルマシの英雄」とたたえられ、UIキャンパスの通りの名前にも刻まれたが、当時の学生運動の精神はどこへ行ったのか。21日に「民主化15年の評価」と題してセミナーを開いたのも、活動家が残した民主化の業績を再評価し、政治腐敗を直視しようと考えたからだ。
 15年前、ジョクジャカルタの学生運動を率いたアナス・ウルバニングルム氏は民主党へ、UI学生自治会長だったラマ・プラタマ氏は福祉正義党(PKS)へ入党し、政治活動を展開したが、いずれも汚職疑惑が浮上した。
 民主党の腐敗はアナス氏だけではない。次世代を担う存在と期待された政治評論家のアンディ・マラランゲン氏は初入閣後に汚職関与が発覚し、辞任した。同党の不正疑惑の中心人物は30〜40代ばかりだ。
 スハルト退陣当時、まだ4歳だったアブラハムさんの世代に政変の激動期の直接体験はない。だが民主化の歩みとともに成長してきた。当時の若者たちが自らの手で一つの時代を終わらせ、レフォルマシを推進してきたように、現在の学生がやるべきことはあると確信している。
 「来年の総選挙に向け、一連の汚職事件の追及を通じ、政治の膿をすべて洗い出すべきだ。腐敗を究明し、混迷から真の安定へとシフトさせることが、われわれの世代の責務だと思う」(小塩航大、第1部おわり)

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