庶民支持、病院悲鳴 国民皆保健制度の試金石も 首都無料医療制度
ジャカルタ特別州が低所得者向け無料医療サービス制度「ジャカルタ保健カード(KJS)」制度を昨年11月に導入してから半年が過ぎた。ジョコウィ知事が公約の目玉に掲げた制度は、経済的な問題で病院に行けなかった庶民からは強い支持を得る一方、医療機関側は急増する患者の対応に苦心し、患者のたらい回しや医師の過重負担などの問題が続出。資金面での負担も大きいとして、今月中旬には州内の16病院が制度からの脱退を州に申し入れた。来年の導入が予定されている国民皆保険制度の試金石とも位置付けられているが、州は抜本的な制度運用の見直しを迫られている。(宮平麻里子)
制度導入後、集中治療室の満床などを理由に患者がたらい回しされ、死亡に至る事例が複数あった。病院側の受け入れ態勢が未整備で、医療機関間の連携不足が問題視された。
一方、現場で働く医師たちも、医療の質の確保が難しくなると懸念を強めている。ジャカルタで勤務する数十人の若い医師らは20日、中央ジャカルタのホテル・インドネシア(HI)ロータリー前で、保健カード制度は患者数を急増させ、医師に過重な負担を強いていると訴えた。インドネシア医師協会(IDI)のザエナル・アビディン会長も、医師らの主張に理解を示した。
■「管理体制に不備」
管理体制の不備を指摘する意見も出ている。州議会のアフマッド・フシン・アライドルス議員(民主党)によると、ファウジ・ボウォ前知事時代に実施した保険制度(ジャムケスマス)の対象者は貧困層と認定された120万人だったのに対し、現行の保健カード制度の対象者は州人口の半分ほどの470万人。増加分の350万人は、適正な審査が行われていない可能性があるという。
4月には州内の富裕層や住民登録証(KTP)を偽造した州外住民がカードを不正利用する事例が発覚。アライドルス議員はまた、同制度に配分した1兆2千億ルピアの予算が州財政の大きな負担になっていると主張した。
■病院は損失膨らむ
州内の16病院は16日、保健カード制度からの脱退を政府に申し入れた。治療にかかった費用の30%程度しか回収できず、損失が膨らむばかりだったとしている。
州は一人当たり月2万3千ルピアの保険料を拠出しているが、アホック副知事は「現在使用している算定方法では、対象者の患者の医療費のすべてはカバーしきれない。現在、調査を進めているが、以前は3万?5万ルピアが理想だと考えていた」として、保険料の引き上げも含め、制度の見直しを検討する意向を表明。「2カ月ほどで検討を終えるので、病院側は辛抱してほしい」と呼び掛けた。
州内の開業医を近隣住民の家庭医に指名する計画や医師の賃上げなど、医療サービスの向上に向けた施策を打ち出してきたジョコウィ知事は、保健カード制度からの脱退を申し入れる病院が出てきていることについて、病院側が患者へのサービス提供ではなく、利益の追求に意識が向きがちだと苦言を呈した。制度導入によって、多くの市民が初めて近代的な医療サービスを受けることができたとして、改めてその必要性を訴えている。
■国民皆保険に暗雲
中央政府は来年、国民皆保険などを含めた公的社会保険の運営機関、社会保障機関(BPJS)の業務開始を予定している。
14年の保健関連予算を段階的に引き上げ、19年までに国民皆保険の達成を目指すが、一人当たりの保険料は月1万5千ルピアとジャカルタ特別州より低額。対象範囲も全国にわたるため、円滑な運用はまだまだ難しそうだ。