【下請けサバイバル】 ⑷人材編 人材確保、困難に
インドネシア経済への地元経営者の認識が「上り坂」から「踊り場」に変化する中、経験豊富なベテラン日本人経営者に課題と解決方針を語ってもらう座談会の4回目。経営の根幹となる人材確保についてさまざまな意見が上がった。
B「デキるやつほど辞めてっちゃうってことだけど、やっぱり中小企業は事業領域とか扱ってる商品が限られてくるから、飽きちゃうってのもあるのかもね」
C「リクルートホールディングスが4月に発表した調査によると、インドネシアは39歳までで平均転職回数が1・64回とASEAN(東南アジア諸国連合)最多。引き抜きで支払われるお金が高いってのもあるけど、普通に転職するだけで、給料が倍になるケースもあるみたい」
A「中途も優秀な人材の獲得は難しいけど、新卒も例外とはいえなくなってきた。バンドン工科大学の学生は経験はないけど基礎技術は勉強しているから成長も早いし、率先して採用してたけど、最近はなかなか難しい」
B「それはどこの日系企業も同じみたい。日系企業全体の評判が落ちてきたのかな」
D「ここ1年で白物家電でサムスンが圧勝した影響はやっぱり大きい」
A「K―POPも人気が出てきているしね。こういう風に考えると、生活に直結する芸能とか、BtoC(企業の対一般消費者取引)商品ってばかにできないね」
■長期的な定着困難
D「インドネシアの学生で、日系の中小企業に勤めたいって人はどう考えてるのかね。法制度とかについては日本の新卒よりも情報っていうよりはイメージで考えている印象がある。まあ、僕らの世代と日本の今の若い人たちとは状況が違うから、僕が言うのもちょっと乱暴だけど」
B「JKT48にも頑張ってほしい気持ちはあるけど、実際、韓国勢に押されてる感も出てるよな。確かに日系企業の人気とよく比例してる気はする」
A「新卒学生の就職もジャボデタベック(首都圏)周辺に固まってるから、地方なんかは優秀な人材の確保自体が難しいかもしれないね。そういうところをじゃかるた新聞にぜひ取材してほしい(笑)」
D「結局、現場作業員の確保はそう難しくないわけよ。若年人口自体は多いから。問題はマネジャークラス。幹部人材は長期的に定着してほしいっていうのはほとんどの中小企業に共通すると思う」
A「メーカーの社長としては技術系の社員は定着してほしいよね。現場を仕切る人に必要なその職場での経験とか人望とかは、長く勤めてないと得られないわけだから」
C「まあ、でも長く勤めてるのもモチベーションの面で硬直化するからね。結婚を機に、勤務態度がダメになる社員も多い」
■転職促す制度
A「この前の組合の回で言い足りなかった退職金について話すと、労働法自体が転職を促しているとしか思えない。2003年のメガワティ政権時代にヤコブ大臣(労働移住相)が定めた規定では、勤続10年目に入ると会社都合の場合、32カ月分で退職金が頭打ちになる」
B「自己都合の場合、会社の負担は圧倒的に減るから、会社をさぼって会社都合で辞めさせるのが組合の手口ってのもみんなが知るところ」
C「大手電化製品メーカーも法律規定よりかなり多めに払わざるを得ないケースもあったみたいだし、この問題はやっぱり重い」
■残業したがる理由
D「ちょっとずれるかもしれないけど残業代もそうだよね。定時よりも1時間すぎると1・5倍、2時間以上は1時間につき2倍支払うようになっている。これがあると残業するために、そりゃ早く帰らないよなって思うよ」
A「こういう流れの中で正社員じゃ採れませんってことで契約社員での雇用が増えて、今になって正社員雇用の要求が高まった。これが今のストライキの遠因になってることは間違いない」
B「実際にインドネシアの優秀な人材って、どういう風に進路を考えてるんだろう。じゃかるた新聞にこの前載ってたけど、官僚になりたいって人が多いみたいだね」
C「愛国心に燃える人と賄賂で取り返そうって人の2パターンに分かれるって記事ね」
■SMEJを頼りに
A「中小企業連合会(SMEJ)の白石康信会長も言ってるけど、資金・人材・情報がインドネシアの日系中小企業の課題となる状況には変わりがないわけで、新しく進出する社長はSMEJでも何でも頼る方がいい」
D「頼れるのは苦楽をともにした仲間ってのは至言だよね。ジャカルタ邦人社会は狭いから趣味なんかを通した付き合いもいいかもしれないね。良いヒントがもらえるかも」(赤井俊文 つづく、次回は29日付7面で掲載予定)
◇座談会のメンバー
A 電子機器メーカー社長、70代(東ジャカルタ)
B 自動車部品メーカー製造担当取締役、60代(ブカシ)
C プラント向け工業部材の合弁企業社長、60代(東ジャカルタ)
D 容器包装類メーカー社長、60代(ブカシ)