【若い大国、民主主義どこへ 民主化15年を聞く】(3) 民主化の中身に課題 川村晃一 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所地域研究センター研究員
「10カ国以上に分裂してしまうのではないか」。そんな不安を乗り越え、インドネシアは1998年、民主化を果たした。改革で国軍の二重機能が廃止され、ときに暴力的に政治介入をしてきた軍が直接手を出せない環境が生まれた。
2002年までに憲法が4度改正され、三権が分立した。05年に始まった地方首長選挙は、民主化が地方まで落とし込まれたことを証明した。民主的で安定する政治があるからこそ、経済成長がある。制度としての民主主義の定着を評価したい。
しかし、その中身には課題が山積する。今後に大きな影響をもたらすのは、10年以上取り組んでもなくならない汚職だ。検察と警察があるにもかかわらず、わざわざ作られた汚職撲滅委員会(KPK)は、疑惑があれば司法の手にかかり、有罪の可能性があるという一つの成果を生んだ。
一方で、ユドヨノ大統領の出身母体で政権与党の民主党、清廉な印象が強い福祉正義党(PKS)など民主化を引っ張った政党の汚職への関与が明るみに出た。
機会の平等を奪い、政治・経済的格差を生み出す汚職は、国民の不満を引き起こす。政党への不信はポピュリズムを生む。国軍出身で指導力を強調し、来年の大統領選を占う世論調査で高い人気を維持するグリンドラ党のプラボウォ・スビアント最高顧問会議議長、市民との対話を図るジョコウィ・ジャカルタ特別州知事。パフォーマンスは大衆の感情に直接訴えかける。政党を超越し国民の後押しを受ける指導者は議会と対立しても、自らの政治を強引に押し進めることができる。民主的に選ばれた人が民主主義を壊す危険性がある。
中長期的な課題には小さな火種として、宗教・民族少数派の問題がある。スハルト時代は治安を乱すこと自体が許されなかったが、イスラム異端派とされるアフマディヤへの襲撃が続くなど国民一人一人の基本的人権が守られていない。
民主化を実現したにもかかわらず、少数派の間には裏切られたという思いが募る。昨年のジャカルタ特別州知事選で現在副知事を務める華人のアホック候補に対し、前知事ファウジ・ボウォ候補の陣営はブタウィ、ムスリムという点を強調した。民主主義の中で宗教や民族が政治的に利用される危険性があることを物語った。(聞き手・上松亮介)
◇かわむら・こういち インドネシアを中心に東南アジアを研究。専門分野はインドネシア政治研究、比較政治学。
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