「バクリー大統領」に暗雲 財閥地盤沈下 不正流用疑惑、巨額赤字 尾を引く熱泥事故
ゴルカル党党首のアブリザル・バクリー氏が率いる財閥バクリーグループが地盤沈下している。出資する英石炭開発ブミの子会社で不正流用疑惑が浮上し、株取引が停止。グループの躍進に大きな貢献を果した傘下の石炭開発企業も巨額赤字に転じ、泥噴出事故の補償の未払い問題も残る。昨年7月に早々とゴルカル党の大統領候補に決まり、来年の大統領選の準備を着々と進めてきたバクリー氏の選挙戦にも影を落としかねない状況だ。
英石炭開発ブミは先月22日、2012年の決算発表が5月まで遅れる見通しと明らかにした。ロンドン株式取引所でのブミ株取引は翌23日から停止。ブミは今月6日まで決算を発表していない。
遅延の原因は、85%出資の石炭開発子会社ベラウ・コールの財務諸表がまとまっていないこと。英メディアは、カリマンタン島の地権者数人に支払ったと記載された3800万ドルの確証が得られていないと報じている。今回の遅延を受け、スコット・メリリー最高財務責任者が6月の年次取締役会で退任することが決まった。ほかにも英デーリー・テレグラフ紙(電子版)は6日、ベラウが「シャトー・アセアン・ファンド1」という会社に7500万ドルを投資した後、使途不明になったと報じている。
ブミは2010年12月、ナサニエル・ロスチャイルド氏の投資会社にバクリーの石炭事業を組み込んで設立。急速に拡大していたインドネシアの石炭開発企業3社を統括したが、バクリーとロスチャイルドは不正流用疑惑をめぐり2年以上攻防を繰り広げ、泥仕合となった。一連の騒動はブミの企業統治の欠落を印象付け、英紙は由緒ある金融街シティの名を汚したとして、同市場上場のブミを「よそ者」とやゆした。
■稼ぎ頭も傾く
ロスチャイルド側によるブミ・リソーシーズの独立監査を受けたバクリーはブミへの出資解消を決意。バクリーは株式交換と株購入を通じて、ブミからブミ・リソーシーズを切り離し、経営を掌握したい考えだ。ただ、バクリーの経営に寄与してきたブミ・リソーシーズの経営も、火力発電用の燃料炭価格が下落した結果、悪化している。同社は4月上旬、12年通年で6億6620万ドルの純損失を記録したと発表した。11年の純益2億1630万ドルから大幅に転落。同社は高利で運転資金を調達したのが大きな痛手になっているという。
バクリーは昨年から今年にかけて事業売却を進めている。西ジャワ州と中部ジャワ州の高速道事業、ボゴール県のリゾート開発事業を財閥MNC(メディア・ヌサンタラ・チトラ)に売却。別の石炭開発部門の株式29%、その他のエネルギー事業部門の18%も手放した。
最も大きな売却はテレビ・ネットメディア・グループのフィシ・メディア・アジア(フィファ・グループ)株になりそうだ。売却交渉にはテレビ事業を手がけるMNC、CTコープなどが参加。株式51%の売却価格は12億〜20億ドルに上ると報じられた。ほかにも紙パルプやプランテーション事業の売却を検討しているともいわれる。
売却資金はブミリソーシーズ切り離しとアブリザル氏の大統領出馬に充てられるとみられる。来年の大統領選までの選挙広告には、1候補でテレビ広告を含め2兆〜3兆ルピアかかるといわれる。アブリザル氏は、所有しているテレビ局2局を活用することで費用を軽減できる可能性があったが、今回のフィファ売却でより出費が増すことになる。傘下2局はすでにアブリザル氏の愛称「ARB」を打ち出したテレビ広告を放映してきた。
東ジャワ州シドアルジョの泥噴出事故も、大統領選出馬の急所になる可能性がある。バクリー傘下企業が天然ガス掘削中に熱泥噴出を起こしてから今月29日で7年。ユドヨノ大統領は2月「(アブリザル氏による)被災者への補償8千億ルピアが未給付だ」とけん制。ゴルカル党内には依然として大統領候補の交代を求める意見がある。(吉田拓史)