停滞の移転にくさび カンプンに新公営住宅 ジョコウィ肝煎り 第1号案件が始動
カンプン(集落)の整備を目指し、新公営住宅「カンプン・デレット(KD)」第1号の建設が3日、火災被災地の中央ジャカルタ区ジョハルバル郡タナティンギで始まった。州は、新公営住宅を数万人規模の移転を伴う洪水対策にも適用する。ジョコウィ知事のトップダウンで停滞する移転政策にくさびを打ち込んだ格好だ。
ジョコウィ知事が仕掛けた「電撃戦」の様相だ。3月4日に火災が発生。タナティンギの85世帯が住む家屋43戸が焼けた。翌5日にもジョコウィ知事が現場を視察。即座に州による再建案を被災者に提案した。
先月24日に今度は自らが事業の概要を説明し、建設計画に合意。今月3日には地鎮祭で「3カ月以内の完成を目指す」と関係者にはっぱをかけた。この間、2カ月足らず。
州住宅局から事業を請け負ったデベロッパーのアグン・スダヤ・グループが家屋を建て、住民に無償で贈与するという好条件が提示された。住宅局作成の完成予想図には欧米風の住宅が並んでおり、緑地や公園も整備。国鉄スネン駅近くの線路沿いのスラムが、整備された住宅地に生まれ変わる見込みだ。
担当者は「85世帯が家屋36戸に入居するため、1家屋に複数の家族が住むケースも出るが、火災前の入居状況を再現した結果だ」と語った。ただ、詳細な建設計画は工事と並行して練ることになるといい、「急ごしらえ」の印象だ。
知事が推進するKDは3階建て以上の団地型。だが今回は戸建て型に落ち着いた。敷地や造りの違う家をひとまとめのマンションにするよりも、元の住宅状況を再現する方向に舵を切った。被災地には大きな家を持つ世帯もあれば、借家だった世帯もあった。マンション型は部屋の規格を統一する場合が多く、元々異なる家を一つの規格に落とし込むと、「不公平」と住民の怒りを買うこともある。復元は建設までの速度を重視した。
■羨望の的に
住民側も州の提案を歓迎している。州が住宅を建設し住民に引き渡すことで両者が合意。ヤフヤ隣組長は「家が焼け、みな再建費用がなかった。そこで降って湧いた話だ。住民はずっと再建案を心待ちにしている」と話した。村落はパサール・スネン市場近く。住民の多くはインフォーマルセクターの労働者で低所得という。
州は今回の試みを、多くの地域で意見がまとまらず、停滞している洪水地域の住民の移転の起爆剤にもしたい考えだ。プルイット貯水池の約3千世帯、チリウン川流域の3万7千世帯などで移転交渉を続ける一方、人口過密の州内で移転先の住宅確保も同時並行で進めているのが現状。KDが「羨望の集まる場所」となれば、新規建設や移転の促進につながるとの期待を抱いている。
州住宅局は提案から2カ月内の建設開始について「住民の土地権利が複雑でなかったため、交渉が容易に進んだ」と話した。交渉中の他地域では土地所有権、建設権、使用権が複雑に絡み合うケースがあり、対象となる数百世帯の意見の統一が難しいという。
ジョコウィ知事によると、タナティンギ事業の費用は50億ルピアで、2013年の州予算から計上する。道路などを含めた公共設備を除くと、1世帯に5千万ルピアが贈与されることになる。カンプン整備プログラムでは、州内38カ所2万世帯の住民と交渉を続けているという。(吉田拓史、写真も)